三大疾病やがん治療費はいくらか? 保険は必要なのか?現役の医師が解説します。
35年の間、医師として診療する中でよくいただく質問があります。
それは『病気になったときにいくら必要ですか?』や『どのくらいの医療費がかかりますか?』と、聞かれます。 このような質問をされた時には、正直にその時にかかる医療費をご家族や患者様に回答をさせていただいております。
また、知人や友人からは『生命保険や医療保険』が本当に必要なのか?っと、多く聞かれます。
今回この記事では、35年の医師キャリアをもとに『生命保険や医療保険』が必要なのか?不要なのかを分かりやすく解説させていただきます。
目次
入院費の支払制度が変わった
診断群分類別包括支払い制度(DPC/PDPS)とは?
診療報酬という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。
患者が病院やクリニックを受診した時に、その病気の治療を点数にしたものが診療報酬になり、この診療報酬に沿って、病院やクリニックが保険点数を算出しております。
この診療報酬の計算は厚生労働省が決める算出する根拠に基づき計算されてます。
この制度は、平成15年度より高度の医療を提供する病院(大学病院本院)に国立病院2病院を加えた特定機能病院等の一般病棟が対象として開始されました。
従来の「出来高方式」では診療行為ごとの医療費を積み上げて入院医療費を計算していましたが、DPCでは、患者さんの傷病名と治療行為に応じて「1日当たりの定額医療費」からなる包括部分と、手術費などの出来高部分を合わせて医療費を計算します。
入院の上限金額制限がある
1回の入院での1日あたりの入院費が決められ、病院側が1回あたりに請求できる金額は上限額が設けられ、しかも1回の入院につき、入院全期間を通じて医療資源を投入できる傷病は1つに限定されます。
入院の日数制限がある
入院日数が所定の日数より短ければ、上限額がそのまま病院に支払われるので、短ければ短いほど病院の利益となります。
逆に入院日数が延びれば延びるほど、1日あたりの入院費が減額されるので病院は減収になります。
それ以前の入院費は出来高払いにより、かかった分だけ支払われていたので、入院日数も非常に長く、手術前の諸検査も同時に実施できておりました。
これは、医療費を抑えるために厚生労働省が打ち出してきた施策になります。
一般的に入院させなくなったとよく聞く言葉は、この方針からきています。
簡単に言うと、患者をあまり長い期間入院させずに、治療させる方針に変わったということになります。
がんの入院でいくらかかるの?
具体的に一つの傷病でいくらかかるか計算してみましょう!
胃がん入院でいくらかかる
入院費52,000円 平均在院日数 19.3日(手術あり19.0手術なし19.5)
入院時の総医療費1,003,600円 入院費用3割負担の場合301,100円 高額療養費制度を適用した場合めやす
一般所得・70歳未満 87,500円 (国立がんセンター病院、令和4年9月1日現在)
大腸がん入院でいくらかかる
入院費55,700円 平均在院日数 16.1日(手術あり20.2手術なし11.9)
入院時の総医療費896,800円 入院費用3割負担の場合269,000円 高額療養費制度を適用した場合めやす
一般所得・70歳未満 86,400円 (国立がんセンター病院、令和4年9月1日現在)
肺がん入院でいくらかかる
入院費55,500円 平均在院日数 17.6日(手術あり19.4手術なし15.7)
入院時の総医療費976,800円 入院費用3割負担の場合293,000円 高額療養費制度を適用した場合めやす
一般所得・70歳未満 87,200円 (国立がんセンター病院、令和4年9月1日現在)
乳がん入院でいくらかかる
入院費60,900円 平均在院日数 12.1日(手術あり9.2手術なし14.9)
入院時の総医療費736,900円 入院費用3割負担の場合221,100円 高額療養費制度を適用した場合めやす
一般所得・70歳未満 84,800円 (国立がんセンター病院、令和4年9月1日現在)
がん入院費負担は8万程度
入院費用はすべて8万円台になるので、この8万円のお金を準備できるのか?または、準備できないかでの判断になります。
この入院費用が心配になるなら入院保険は必要になりますし、現金や預貯金で準備できているなら不要になります。
入院保障は不要?!
サラリーマンと自営業者では負担金額が異なります。
入院時の自己負担入院時の主な自己負担分は、以下3つになります。
① 保険診療となる「医療費の自己負担分」
② 保険診療外となる「入院中の差額ベッド代」
③ そして所得の変化にともなう「入院中の収入減少分」 この3点を考慮し入院保障が必要なのか不要なのかを検討しなければなりません。
サラリーマンの入院保障は不要
「医療費の自己負担分」のみ考慮するとサラリーマンの入院保障は医者の立場からは不要になります。
事業主の入院保障は必要
自営業の方は、健康保険で利用できる「傷病手当金」の制度がありません。
また有給休暇という概念もないため、入院時に給付されるような医療保険の加入を検討すべきでしょう。
差額ベッド代や収入減少分を準備する
入院中の差額ベッド代や入院中の収入減少分は大きな金額が想定されるため貯金もしくは保険でカバーする必要があります。 収入減になった時いくら必要なのか?貯金がなければ保険の加入を検討すべきでしょう。
通院保障が必要か?
通院費として高額になるのはがんに対する化学療法と関節リウマチなどの特定疾患のみになります。
ただし、これも高額医療費で一定の金額があとで払い戻される制度があります。 通院保障は医者の立場からは不要になります。
先進医療特約は不要?!
特約の中の先進医療については医者の立場からは不要になります。
先進医療とはネーミングはいいですが、有益かどうかまだ結果が出ていない医療のことを言います。
大学病院などで、大学が医療費をカバーしてくれる先進医療ならば、納得がいけば、受けてもいいかもしれません。 いずれ有益な結果だと評価されれば、保険収載され、3割負担で受けれる治療になります。
通院特約は不要!?
退院後にその病気の治療を目的として通院をした場合に、通院給付金が受け取れます。
しかし、一つの傷病名で通院をカバーする期間は必ず上限日数が定めてあります。通院特約は、医者の立場からは不要になります。
三大疾病の保険やがん保険は必要か?
2021年の日本人死因ランキングになります。
第1位「がん」(26.5%)
第2位「心疾患」(14.9%)
第3位「老衰」(10.6%)
第4位:脳血管疾患(7.3%)
第5位:肺炎(5.1%)
脳血管・心臓血管併せて 22.2% がん 26.5% このデータを見ていかがですか? 「がん」「心疾患」「脳血管疾患」を三大疾病といいます。
入院保障や通院を手厚くカバーできると広告やテレビCMで宣伝していますが、多くの保険は満額受け取れず3大疾病で半分、がん保険だと1/4しか保障されないケースが多々あります。
ずっとかけ続けて全てが無駄になる確率が高くなると考えられます。医者の立場から見て必要な保障は、三大疾病のときに一時金で受け取れる保障は必要と思います。
一時金の金額の大きさにもよりますが、三大疾病時の「収入減少分」にも充てることができるので一時金タイプをおすすめいたします。
まとめ
病気になったとき、その場で医療費を払える金額があるか、または、まとまった現金や貯金がない場合は、あらかじめ事前に生命保険で準備することをおすすめいたします。
保険は期待値になり対費用効果で考えましょう! 収入減になった時いくら必要なのか?
また、その後、亡くなったときにはどの程度のお金が必要になるのかをきっちりと把握する必要があります。
例えば収入減や亡くなったときに準備する資金を簡単に計算してみると、 当座、6ヶ月間の生活費がストックされていて、 一人当たりの生活費 (標準生計費) は、年間150万円~300万円の範囲なので(人事院の調査による) 残された家族が3人として、 300万円×3人×とりあえず5年=4,500万円 就労不能や三大疾病一時金または、死亡保険をかけておくことになります。
自営業者であれば、差額ベッドと就労不能期間の保障を保険で積み立てておくことが必要になります。
【医者からの勧め】
病気のときに役に立つのが社会制度になりますが、きちんと調べて制度を利用しようとしないと使えないのが現行の社会保障制度になります。
ですから、住んでいる地域の市役所や区役所でしっかりと聞かないと教えてくれないので、わかるまでとことん聞いてみてください。
また、親身になってくれるフィナンシャル・プランナーに現在の生活水準に合わせたプランを作成してもらう。尚且つ5年ごとにライフプランにに合わせた保険プランに見直してもらいましょう。
人生での高い買い物の順位です。 1番高い買い物が「不動産」 2番目に高い買い物が「保険」 3番目に高い買い物が「車」 になるので、フィナンシャル・プランナーや保険のプロによく相談して保険選びをすることをおすすめいたします。
コラム筆者:医学博士田中松平 総合臨床科、産業医歴35年