E&O保険とPL保険の違い?保険金支払い事例やメリットとデメリットを質問に回答します。
E&O保険という保険について耳にしたことのある人はいるでしょうか。
おそらく損害保険の現場に日ごろから身を置いている人でもない限り、あまり馴染みのないワードでしょう。
しかしE&O保険は、製造業者や建設業者にとってはニーズの高い補償内容を提供する保険なのです。
今回の記事では、E&O保険の補償内容や具体的な損害事例、加入することのメリット・デメリットについて、質問に対する回答を通じて解説していきたいと思います。
目次
質問:E&O保険の補償内容について教えてください。
建設事業を営む者です。先日、懇意にしている保険代理店の営業担当者より、E&O保険について情報提供を受けました。
すごく熱心に説明してくれたのですが、イマイチ内容がわかりません。E&O保険はどのような補償内容なのか教えてください。
回答:顧客・取引先といった第三者に経済的な損害を与えた場合に補償する保険
E&Oは「Errors」と「Omissions」のそれぞれの頭文字をとっています。
「Errors:エラー」は過失を、「Omissions:オミッション」は怠慢を意味します。
つまりE&O保険とは、業務遂行上の過失や怠慢に起因して、顧客・取引先といった第三者に経済的な損害を与えた場合に補償する保険ということになります。
簡単に言うとミスに起因した損害を補償する保険です。
従来の賠償責任保険は、第三者の身体を傷つけたり、第三者の物を壊した場合といったように、対人・対物の損害が発生した場合に補償するものです。
一方でE&O保険においては、第三者の身体や財物に対する損害を伴わない経済的な損害を補償対象としているのです。
ここで、E&O保険で実際に支払われる保険金について下記に紹介します。
賠償損害
業務上の過誤によって生じる第三者の経済的損失(逸失利益、代替費用等)に起因する損害賠償金や争訟費用。
費用損害
損害賠償金の発生・拡大防止に必要かつ有益な措置に要する損害防止費用。
基本とする補償内容は概ね上記となります。その他、特約を付帯することで、補償内容を手厚くすることもできます。
なお保険会社によって基本補償や特約の取り扱いは異なりますので、詳細は必ず保険会社に確認するようにしましょう。
質問:E&O保険とPL保険の違いを教えてください。
部品メーカーの製造部門の責任者です。弊社はPL保険に加入しております。
満期が近くなったので、契約更改に関する打ち合わせをしている際、E&O保険の検討を打診されました。
詳しく話を聞いたのですが、いま加入しているPL保険と何が違うのか理解できませんでした。
PL保険とE&O保険両方入ることで、リスクにしっかり備えられると言うのですが、同じものを二重にかける意味があるのでしょうか?
弊社も余裕があるわけではないので、意味のないものにお金をかけてられません。
PL保険との違いを教えてください。
回答:E&O保険とPL保険とでは、補償するリスクの範囲に違いがあります。
E&O保険とPL保険とでは、補償するリスクの範囲に違いがあります。
ここでPL保険とE&O保険のそれぞれの補償範囲について整理します。
PL保険の補償範囲
PL保険では、製造・販売した商品・製品(生産物)、および仕事の終了後、仕事の行った結果が原因となり、第三者にケガをさせたり(対人事故)、第三者のモノを壊したり(対物事故)したことにより、法律上の損害賠償責任を負担した場合に被る損害を補償します。
E&O保険の補償範囲
E&O保険では、製造した製品やサービスの欠陥・不備によって、第三者に「対人・対物事故をともなわない経済的損失」が発生した場合に、法律上の損害賠償責任を負担した場合に被る損害を補償します。
このようにPL保険とE&O保険の大きな違いは、対人・対物事故をともなうか否かになります。
損害保険の現場に身を置いている筆者の体感としては、製造業や建設業等の企業の多くが、PL保険で補償する「対人・対物事故のリスク」にはしっかり備えています。
しかしPL保険ではカバーできない「対人・対物事故をともなわない経済的損失のリスク」については備えが追い付いていません。
PL保険に比較するとE&O保険は認知度の面ではそれほど一般的になっていないのが現状です。
PL保険との補償範囲の違いを含めた補償内容をしっかり理解して、ぜひ加入を検討することをおすすめします。
質問:E&O保険における保険金支払い事例を教えてください。
先日E&O保険の提案を受けました。補償内容もしっかり理解でき、魅力的な補償内容と感じたので、ぜひ加入をと、前向きに検討しているところです。
具体的にどのような保険金の支払い事例があるのでしょうか。
そのような事故が発生しないに越したことはないのですが、自分が実際に保険金請求をする際の参考に聞いておきたいです。
回答:人為的なミス等に起因した製品やサービスの不備によって第三者に損害を与えたもの
E&O保険で保険金の支払い対象となるのは、人為的なミス等に起因した製品やサービスの不備によって第三者に損害を与えたもので、対人・対物事故をともなわないものとなります。
具体的な損害事例をいくつか紹介したいと思います。
事例①
自動車部品の製造業者が、モーター部分の部品を製造し、二次製造業者に納品したところ、仕様書で定めた規格に合致していないことが発覚し、大幅な製造スケジュールの遅延が発生。各業者より製造スケジュール遅延に伴う逸失利益を請求された。
事例②
製造工場の機器に欠陥があり、納品予定の部品の製造が大幅に遅延した。
製造工場側は別の機器を動かしたり、別部門の人員に応援要請をする等の対応を講じたが、納品先への納品に大幅な遅延が発生した。
製造工場に機器の設置を担当した業者は、製造工場より逸失利益や人件費を請求された。
事例③
製造した精密機器をメーカーに納品したところ、精密機器の設計ミスが発覚。
当初想定していた性能の発揮ができなかったことでパフォーマンスが下がったとして、逸失利益を請求された。
事例④
液晶画面の製造過程において、納入された電子基板の検査を実施したところ、欠陥が判明した。電子基板のメーカーに再度製造を指示。
再度納品されるまでラインを停止せざるを得ず、大幅なスケジュールの遅延が発生。
結果的に発生した人件費や逸失利益について請求された。
事例⑤
食品に貼るラベルの印刷業務を請け負っている業者が、缶詰に貼る表示ラベルに、誤った情報を印刷してしまった。
これにより、缶詰の出荷ができなくなってしまった。
缶詰の業者から逸失利益を請求された。
このように、第三者がケガをした、もしくは第三者のモノを壊してしまった、といったような目に見える形での損害がともなわなくても、第三者に対しては損害が発生しうるのです。
特に製造業事業者は、PL保険とセットでE&O保険についてもしっかり検討することをおすすめします。
質問:E&O保険のメリット・デメリットは何でしょうか?
E&O保険の提案を受けましたが、加入をどうしようか悩んでいるところです。
加入することで発生するメリットやデメリットで総合的に判断したいと思うのですが、思いつきません。
E&O保険に加入することのメリットやデメリット、注意すべき点なんかについても教えてください。
回答:業種によってはE&O保険に加入することで様々なメリットやデメリットがあります。
業種によってはE&O保険に加入することで様々なメリットがあります。
特にPL保険のニーズの高い業種である製造業者や建設業者にとっては、E&O保険の面でも大きなメリットがあります。
メリットとデメリット、注意すべき点について解説します。
回答:E&O保険に加入するメリット
PL保険ではカバーできない補償範囲をカバーできること
これが、E&O保険における最大のメリットであるといえます。
PL保険では人為的なミス等によって、納期の遅延に伴う逸失利益等、取引先に発生させてしまった損害については補償対象外となります。
なぜならそこに対人損害も対物損害も発生していないからです。一方でE&O保険では、そのようなPL保険の守備範囲外のケースも補償対象としています。
この点がなによりも大きなメリットですが、理想はPL保険とE&O保険とで企業が抱えるリスクを網羅的にカバーすることです。
時代背景に対応したリスクを補償できること
これはあくまで現場で体感した筆者の感想です。様々な企業様(特に製造業)とお話をしていると、一様に技術者の高齢化に悩みを持たれています。
結果として技術の引継ぎがうまくいかず、経験不足であったり未熟であったりする技術者がやらざるを得ず、ミスや納期遅延が発生してしまっています。
結果的に取引先に迷惑をかけ、信頼の失墜をまねいてしまうのです。
E&O保険は企業、特に製造業が抱えるこのような現状、時代背景に対応した保険であるといえます。
回答:E&O保険のデメリットや注意すべき点
補償対象外となるケース
これはある意味、補償対象となるケースを理解すること以上に重要な点です。補償対象外となる事例はしっかりおさえておきましょう。
E&O保険では、物理的な損害が発生しない限り保険金の支払い対象とならないという点は最重要事項です。
勘違いされやすい点でもあります。
その他にも、納期の遅れ等、外形的には支払い対象となる事案だとしても、納期の遅延を生じさせたのが故意によるものであった場合は支払い対象となりません。
商品パンフレットや約款等には保険金をお支払いできない主な場合の記載がありますので、誤解のないようしっかり確認するようにしましょう。
自己負担はゼロにはならない
E&O保険の性質上、免責金額は必ず設定する必要があります。免責金額とはいわゆる自己負担額を指し、保険金支払いの際に適用されるものです。
下記の事例を参考にしてください。
【E&O保険の参考事例】
E&O保険の設定保険金額:1億円(免責金額:50万円)の場合
保険会社による損害認定額:500万円
保険金の支払額:500万円(損害認定額)–50万円(免責金額)=450万円
上記のように、免責金額は保険金の支払いの際に、損害認定額から差し引かれる金額を指します。
なお免責金額を高く設定すれば、その分保険料は安くなりますが、逆に免責金額を低く設定すると保険料は高くなります。
ここまで解説してきたように、PL保険とE&O保険は補償する範囲が異なります。
どちらを優先するかは企業様の補償に対する考え方によりますが、E&O保険とPL保険はセットで考えることを基本とし、それぞれ補償する範囲をしっかり理解した上で取捨選択しましょう。
【インスタ用】
- E&O保険とは、業務遂行上の過失や怠慢に起因して、顧客・取引先といった第三者に経済的な損害を与えた場合に補償する保険です。要するに、ミスに起因した損害を補償する保険です。
- E&O保険とPL保険の大きな違いは、対人・対物損害をともなうか否かによります。PL保険が対人・対物事故をともなう損害を補償するのに対し、E&O保険は対人・対物事故をともなわない損害を補償します。
- E&O保険の損害事例その1
自動車部品の製造業者が、モーター部分の部品を製造し、二次製造業者に納品したところ、仕様書で定めた規格に合致していないことが発覚し、大幅な製造スケジュールの遅延が発生。各業者より製造スケジュール遅延に伴う逸失利益を請求された。
- E&O保険の損害事例その2
製造工場の機器に欠陥があり、納品予定の部品の製造が大幅に遅延した。製造工場側は別の機器を動かしたり、別部門の人員に応援要請をする等の対応を講じたが、納品先への納品に大幅な遅延が発生した。製造工場に機器の設置を担当した業者は、製造工場より逸失利益や人件費を請求された。
- E&O保険の損害事例その3
製造した精密機器をメーカーに納品したところ、精密機器の設計ミスが発覚。当初想定していた性能の発揮ができなかったことでパフォーマンスが下がったとして、逸失利益を請求された。
- E&O保険の損害事例その4
液晶画面の製造過程において、納入された電子基板の検査を実施したところ、欠陥が判明した。電子基板のメーカーに再度製造を指示。再度納品されるまでラインを停止せざるを得ず、大幅なスケジュールの遅延が発生。結果的に発生した人件費や逸失利益について請求された。
- E&O保険の損害事例その5
食品に貼るラベルの印刷業務を請け負っている業者が、缶詰に貼る表示ラベルに、誤った情報を印刷してしまった。これにより、缶詰の出荷ができなくなってしまった。缶詰の業者から逸失利益を請求された。
- E&O保険のメリット1
PL保険ではカバーできない補償範囲をカバーできること
- E&O保険のメリット2
時代背景に対応したリスクを補償できること
- E&O保険のデメリット1
補償対象外となるケースに要注意!
- E&O保険のデメリット2
自己負担はゼロにはならない