M&A取引で必要になる表明保証保険とは?メリットとデメリットを解りやすく解説します。
今回の記事のテーマは、表明保証保険です。
「表明保証」という言葉は、きっと多くの人が初めて耳にする言葉でしょう。
実はM&Aの現場では非常に重要な意味をもつものなのです。
M&Aはここ数年、様々な事例が発表されていて、企業同士の交流が活発であることを物語っています。
たとえば2023年12月18日の日本製鉄による米鉄鋼大手のUSスチール買収発表や、アステラス製薬の米バイオ医薬品Iveric Bio社の子会社化完了など、様々な事例が発表されています。
今回の記事では、表明保証保険について、その仕組みや補償内容、メリット・デメリットについて解説していきたいと思います。
目次
M&Aとは
そもそもM&Aとはどういう意味なのでしょうか。
日常的に使用されている言葉ではありますが、その意味を正確に理解している人はそれほど多くないのではないでしょうか。
M&Aとは、「Mergers」「and」「Acquisitions」のそれぞれの頭文字を取って略された言葉です。
つまり言葉としては「合併」と「買収」を意味します。
広い意味では、企業間の業務提携や販売協力体制の構築までをも含む、企業の経営戦略のひとつとして使われることもあります。
M&Aには、複数の企業が協力体制を構築することによってスケールメリットを得られる、ノウハウが共有されるといったメリットがあります。
表明保証とは
表明保証保険の内容に入る前に、表明保証の意味について触れておきます。
M&Aにおいて、買い手と売り手は相互に財務諸表等の重要な情報を開示し合い、その情報を元に買収判断をします。
そこで開示される情報が真実であり正確であることを保証することを表明保証といい、M&Aにおける最終契約書において表明保証条項として記載されます。
もし仮に記載された情報に誤りがあり、結果的に損害が生じた場合は、誤った情報を記載した側に損害賠償責任が生じる、非常に重要な項目なのです。
表明保証保険について
ここでは、表明保証保険の補償内容と保険料についてみていきたいと思います。
表明保証保険:補償内容
表明保証保険は、M&Aにおける最終契約書の表明保証条項の記載に違反があり、その結果として発生した経済的損失を補償する保険です。
言い換えれば、表明保証条項の記載に虚偽があったとしても、その結果として損害が発生しなければ補償の対象とはならないのです。
補償額は、通常の損害保険と同様、契約時に設定した補償限度額の範囲内で補償するという仕組みです。
補償限度額は、損害の全額を補償するという設計ではなく、対象会社の企業価値の10~20%程度の設定とすることが一般的です。
表明保証保険:保険料
表明保証保険の保険料は、補償限度額の1~3%程度が一般的です。
ただし業種によって異なる面もあります。
たとえばリスクが大きいとされる金融業は、一般的な1~3パーセントの範囲の中でも、高い料率が適用される傾向にあります。
なお、表明保証保険には最低保険料が設定されており、概ね30~50万円となっています。
表明保証保険はまだ日本での歴史は浅く、事例は少ないです。
そのため保険会社によって補償内容や料率には差異が出ます。契約を検討する際には、必ず複数社で見積もりを取りましょう。
表明保証保険を活用することのメリット・デメリット
表明保証保険は買い手側で活用される場合が圧倒的に多いものです。
ここでは買い手側のメリット・デメリットにしぼって解説します。
メリット①:M&Aが円滑に進む
買い手側が表明保証保険に加入していることそれ自体が、交渉において売り手側からの信頼を勝ち得ることになります。
表明保証違反における損害を保険会社が補償してくれるという点で、売り手側にとっては安心して情報開示することにつながり、円滑に交渉を進めることができるからです。
メリット②:補償の請求が簡便
仮に売り手側の表明保証違反の結果として、買い手側に損害が発生した場合、表明保証保険に入っていない場合は売り手側に損害賠償請求することになります。
売り手側が損害賠償請求にそのまま応じることはほぼなく、交渉には時間や費用、労力もかかります。
その点で、表明保証保険に加入していれば保険会社へ保険金請求するだけなので、前者に比べて請求手続きは格段に簡略化されます。
メリット③:売り手の信用が担保される
表明保証は開示する情報に虚偽がないことを保証することであると説明しました。
しかし実際問題として、自社の情報のすべてを正確に把握するのは難しく、後から表明保証条項の違反が発覚する場合は往々にしてあります。
このような損害を表明保証保険によって担保するということは、イコール売り手側の信用を保険によって担保することを意味します。
メリット④:外国籍企業との交渉でも安心
売り手側が外国籍企業のケースで表明保証条項違反が発覚した場合、その損害賠償請求交渉は困難を極めることは想像に難くないでしょう。
その点、表明保証保険に加入していれば、交渉(請求)の相手は保険会社となるので、交渉の困難さからは解放されます。
デメリット①:保険料
保険料は一般的に補償限度額の1~3%程度となることは先に説明した通りです。
ただそもそもの補償限度額も、その算出根拠を企業価値の10~20%を相場としています。
そのため、保険料負担は数百万~数千万といった、非常に高い水準になります。
保険料負担はデメリットのひとつと言えるでしょう。
デメリット②:加入方法が煩雑
表明保証保険の加入にあたっては様々な段階を踏んだ上での加入となります。
大まかには下記のステップとなります。
ステップ1:保険会社に加入にあたっての問い合わせをする
ステップ2:財務諸表等の必要資料を提出し、概算見積書を確認する
ステップ3:本申し込みのための引受審査を実施(デューデリジェンス(※)、株式譲渡契約書のチェック等)
ステップ4:引受審査の一環で電話や面談によるヒアリングも実施
ステップ5:申込者と保険会社間で補償限度額、保険料等を詰めて内容を確定し契約締結
(※)デューデリジェンス・・・M&Aに際して、対象企業の経営状況・財務状況等を調査すること
このように、契約締結までには多くのステップを踏まなければならず、時間もかかります。
たとえば火災保険等のように、物件情報や登記簿謄本のみで簡単に契約できるようなものではないのです。
この契約までの煩雑さは、デメリットとなります。
表明保証保険で補償対象外となる事例
最後に注意点として、表明保証保険では保証対象外となる代表的な事例を押さえておきたいと思います。
・デューデリジェンスの調査範囲外、不十分な調査に対しては支払対象外
・デューデリジェンスが実施されていないと保険会社が判断した事項
・M&A制約時において、既に知っていた表明保証違反
・M&A制約時において、表明保証違反のおそれがあると容易に予測できるもの
・業績予想との乖離等
・年金、退職金等の積み立て不足
・罰金、課徴金等が発生した場合
・成約価格が調整された場合
まとめ
今回の記事では、M&Aにおける表明保証保険について、その補償内容や保険料算出の仕組みについて解説しました。
表明保証保険は扱う金額が桁違いに大きいことから、保険料水準も他の損害保険に比べて格段に高い設定となっています。
加入にあたっても必要となる資料の手配から審査、ヒアリング等、様々な面で煩雑です。
しかし表明保証保険には、このようなデメリットを補って余りあるメリットがあるのも事実です。
M&Aを円滑に進める上で、表明保証保険は必須の補償です。
ぜひ加入を検討しましょう。
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