離婚したら年金はどうなる?受け取れる?受け取れない?分割の方法や金額を解りやすく解説します。
昨今、熟年離婚の件数が増加傾向にあります。
コロナ禍の影響によるリモートワークの普及等で、夫婦でいる時間が増えた結果、お互いの嫌な部分が見えてしまい、不満が募ったことが要因の一つとしてあるようです。
しかしいざ離婚するとなると、財産分与、子どもの親権や養育費、慰謝料等、考えなければならないことがたくさんあります。
その中で、公的年金の加入期間も(元)夫婦間で財産分与の対象とすることができるのです。
今回の記事では、離婚時における年金分割について解説していきたいと思います。
目次
年金分割とは
年金分割とは、婚姻期間中に夫婦が納めた厚生年金保険料の納付記録を分割する制度です。年金の納付記録を分けることで、将来受け取る年金額も分け合えるという効果が生まれます。
たとえば夫が会社員、妻が専業主婦という家庭が婚姻期間25年の末離婚したケースを想像してみてください。
もし離婚による年金分割の制度がないと、夫側は十分な年金を受給できても、妻は十分な年金を受給できるとは言えません。
婚姻期間中は夫婦がお互いに協力して家庭を運営する必要があります。民法にも下記のように規定されています。
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
(e-GOV法令検索 民法第752条(同居、協力及び扶助の義務)より)
夫が働いて、妻が専業主婦という家庭であっても、妻が子育て・家事全般を担うことで夫が安心して仕事できるという環境づくりに寄与していると言えます。
その寄与分も考慮して年金を分割するというのが、平成19年4月に施行された年金分割制度の趣旨です。
なお、あくまで対象となるのは厚生年金保険料の期間のみであることに注意が必要です。国民年金の保険料納付期間は分割対象外となります。
年金分割の方法
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類の方法があります。それぞれについて解説していきます。
合意分割
合意分割とは、婚姻期間中の厚生年金の納付記録を、当事者間の合意した内容をもとに分割を行う制度です。
あくまで当事者間の合意が得られれば、分割割合は上限50%までの範囲で自由に決めることができます。
なお、当事者間の合意が得られない場合は調停や裁判の結果になりますが、そのような場合、ほとんどが分割割合50%で決まることになります。
当事者間で分割割合を決めたら、年金分割の計算を行います。
計算の流れについて、下記の前提条件をもとに説明します。
【前提条件】
夫:厚生年金受給権者。対象期間標準報酬総額(※):70,000,000円
妻:専業主婦。対象期間標準報酬総額(※):0円
分割割合:40%
※対象期間標準報酬総額・・・婚姻期間中の厚生年金の標準報酬を、当事者の生年月日に応じた再評価率を乗じて現在価値に換算した額の合計額を指します。年金事務所に請求する情報通知書に記載されているので、年金分割を行う際には必ず取り寄せる必要があります。
夫と妻の対象期間標準報酬総額の合計額を算出する
70,000,000円+0円=70,000,000円
分割割合を乗じて、当事者双方の標準報酬総額を算出する
分割後の夫の標準報酬総額:70,000,000円×(1-0.4)=42,000,000円
分割後の妻の標準報酬総額:70,000,000円×0.4=28,000,000円
分割後の当事者双方の老齢厚生年金額を算出
分割後の夫の老齢厚生年金額:42,000,000円×5.481/1000(※)=230,202円
分割後の妻の老齢厚生年金額:28,000,000円×5.481/1000(※)=153,468円
(※)平成15年4月以降の加入期間を対象とした乗率になります。加入期間に応じて乗率は変わります。
3号分割
3号分割も婚姻期間中の厚生年金の記録を当事者間で分割するという意味では合意分割と同じです。ただ、合意分割と以下の点で相違しています。
分割割合の相違
3号分割の場合、当事者間に分割割合の合意は必要なく、自動的に50%になります。
手続きを進める者の相違
3号分割は婚姻期間中に第3号被保険者であった者が単独で手続きを進めることができます。合意分割は原則として当事者2人で進める必要があります。
合意分割の場合、あくまで当事者間の合意が必要になるからです。
分割対象期間の相違
分割対象となる期間が異なります。合意分割は婚姻期間全体が分割対象となるのに対し、3号分割は2008年4月以降の期間のみが対象となります。
婚姻期間が2008年4月をまたがる場合、2008年3月以前の期間は分割割合について当事者間で合意する必要があります。
年金分割の手続きの流れ
実際の手続きの流れについて、合意分割、3号分割それぞれ解説します。
合意分割の流れ
基本的な手続きは、下記の流れに沿って進めることになります。
- 年金分割のための情報通知書を入手する。
「年金分割のための情報提供請求書」に、当事者双方の基礎年金番号を証明する資料、婚姻期間を証明する資料を添付し、年金事務所に提出することで入手することができます。
- で得られた情報をもとに、当事者間で分割割合をどのようにするか話し合う。
ここで分割割合がまとまらないようなら、調停や裁判で決めることになります。
- 分割割合についての合意書を作成する。
当事者間の話し合いで分割割合を定めた場合は、公正証書の謄本や公証人の認証を受けた私署証書、調停や裁判で定めた場合は、調停調書の謄本や審判書の謄本等が該当します。
- で作成した資料とともに、「標準報酬改定請求書」を年金事務所に提出する。
必ず当事者2人立ち合いのもと、請求する必要があります。
- 「標準報酬改定通知書」が届く。
3号分割の流れ
合意分割と比較すると、3号分割は分割割合が固定となる分、手続きの流れは至ってシンプルです。具体的な流れは下記をご確認ください。
- 「標準報酬改定請求書」を年金事務所に提出する。
添付書類として、基礎年金番号・マイナンバーを証明する書類、婚姻期間を証明する書類、請求日前1か月以内に作成された当事者2人の生存を証明できる書類(戸籍謄本、住民票等)が必要になります。
- 「標準報酬改定通知書」が届く
※3号分割の場合、請求手続きは第3号被保険者であった者一人でできます。
年金分割における注意点
最後に、年金分割制度を利用する際に多く見受けられる勘違いについて、注意点として触れておきたいと思います。
それは、年金分割はあくまで厚生年金保険の加入期間が対象で、国民年金の期間は対象外だということです。
合意分割の項で計算の流れを解説しましたが、簡単に言うと、当事者双方の厚生年金保険の期間を足して2で割るという流れになります(分割割合が50%の場合)。
たとえば自営業者の夫、会社員の妻の離婚の場合、妻側の立場で言うと自分の厚生年金の記録を元夫に分け与える形となります。
もし妻側が年金分割をすることで、自身の年金額が増えることになると思っているとしたら、真逆の結果を招くことになります。
勘違いによって思わぬ落とし穴に落ちてしまう可能性もある注意点です。しっかり押さえておきましょう。
まとめ
今回の記事では、離婚時の年金分割について解説しました。
年金分割は厚生年金保険のみが対象となる制度です。
国民年金は対象外という点はしっかり押さえておきましょう。
分割方法には合意分割と3号分割の2種類があり、それぞれに特徴があります。
合意分割は分割割合を当事者間で自由に設定できるのに対し、3号分割は50%と固定です。その分、当事者間で分割割合を協議する必要がなく、手続きも一人で行うことができます。
ただ、実際に離婚に際して問題となるのは年金分割だけではありません。
年金記録を含めた財産分与、子がいる場合にはその子の親権をどうするか等、様々な問題があります。弁護士等、第三者に介入してもらった方が問題なく進められることは確かです。
一人で悩まず、専門家に相談するようにしましょう。
【インスタ用】
- 離婚時の年金分割は2種類の制度があります。「合意分割」「3号分割」の2種類です。
- 合意分割は当事者間で分割割合について協議して、そこで合意した分割割合をもとに分割する制度です。
- 3号分割は、当事者間で分割割合を話し合う必要はありません。自動的に50%での分割になるからです。
- 年金分割は厚生年金保険の期間のみが対象です。国民年金の期間は対象外となることはしっかり押さえておきましょう。