建築業で実際にあった漏水事故!損害賠償保険金支払い10例を一挙公開
損害保険に携わっている筆者にとって、事故報告を受けることは日常的な出来事です。
ここ数年では、とりわけ漏水事故の連絡はよく受けます。
その主な原因は、建物の老朽化であったり、住人の不注意であったり、そもそもの建築物の施工不良であったりと、ケースバイケースです。
今回の記事では漏水事故に焦点をあてて、事故原因と適用される損害保険との関係を、筆者の経験を踏まえて解説していきたいと思います。
目次
- 1 漏水事故とは?
- 1.1 事故事例①:給排水管の接続部分が加水圧により外れ漏水が発生。
- 1.2 事故事例②:洗濯機からの漏水でフローリング床を汚損し漏水が発生。
- 1.3 事故事例③:建物4階のキッチンの給排水管より漏水が発生。
- 1.4 事故事例④:厨房の排水管に異物、排物が詰まり店舗内に漏水が発生。
- 1.5 事故事例⑤:下水漕モーターに油分が回り、ポンプが故障。汚水が逆流し漏水が発生。
- 1.6 事故事例⑤:洗面所ポンプから漏水が発生。
- 1.7 事故事例⑥:排水管高圧洗浄の加圧によりパイプが破損し漏水が発生。
- 1.8 事故事例⑦:飲食店2階厨房より漏水が発生。
- 1.9 事故事例⑧:仮ポンプの接続部分外れ、地下室に汚水が流入する漏水が発生。
- 1.10 事故事例⑨:店舗内トイレ排管が詰まり厨房下の排管から汚水が漏れる。
- 1.11 事故事例⑩:台風による損害を受け、屋根や外壁が破損してしまい、そこから雨水が漏水が発生。
- 2 漏水事故に備えるには?
- 3 まとめ
漏水事故とは?
そもそも漏水事故とはどういった事故を指すのかを説明します。
某損害保険会社では、漏水事故を下記のように定義しています。
給排水管、暖冷房装置、湿度調節装置、消火栓、業務用・家事用器具からの蒸気・水の漏出、溢出またはスプリンクラーからの内容物の漏出、 溢出により、第三者の財物の損壊(滅失、破損、汚損等を発生させてしまうこと。
単なる水濡れと言ってしまうと、それほど大した損害ではないのではないか、と思ってしまうかもしれません。
しかし、損害の規模が広範囲に及んでいたり、損害額も非常に大きな事例も報告されています。
ここで実際の損害事例を下記に紹介したいと思います。
事故事例①:給排水管の接続部分が加水圧により外れ漏水が発生。
事故日:2017年3月
事故内容・詳細
給排水管の接続部分が加水圧により外れ漏水が発生。
この漏水により給排水管の補修が必要となる。
保険金支払額
37万円
事故事例②:洗濯機からの漏水でフローリング床を汚損し漏水が発生。
事故日:2018年1月
事故内容・詳細
洗濯機からの漏水でフローリング床を汚損し漏水が発生。
保険金支払額
23万円
事故事例③:建物4階のキッチンの給排水管より漏水が発生。
事故日:2018年9月
事故内容・詳細
対象建物4階のキッチンの給排水管より漏水が発生し、床一面に水があふれていた為、フローリングが汚れ変色し張替をすることとなった。
保険金支払額
11万円
事故事例④:厨房の排水管に異物、排物が詰まり店舗内に漏水が発生。
事故日:2018年6月
事故内容・詳細
厨房の排水管に異物、排物が詰まり店舗内に漏水
保険金支払額
40万円
事故事例⑤:下水漕モーターに油分が回り、ポンプが故障。汚水が逆流し漏水が発生。
事故日:2020年4月
事故内容・詳細
下水漕モーターに油分が回り、ポンプが故障。汚水が逆流
保険金支払額
74万円
事故事例⑤:洗面所ポンプから漏水が発生。
事故日:2018年2月
事故内容・詳細
洗面所ポンプから漏水発生。
保険金支払額
36万円
事故事例⑥:排水管高圧洗浄の加圧によりパイプが破損し漏水が発生。
事故日:2018年11月
事故内容・詳細
排水管高圧洗浄の加圧によりパイプが破損し漏水が発生した。
保険金支払額
69万円
事故事例⑦:飲食店2階厨房より漏水が発生。
事故日:2019年2月
事故内容・詳細
飲食店2階厨房より漏水。設備什器等、多数の損害を受ける。
保険金支払額
240万円
事故事例⑧:仮ポンプの接続部分外れ、地下室に汚水が流入する漏水が発生。
事故日:2019年2月
事故内容・詳細
仮ポンプの接続部分外れ、地下室に汚水が流入する漏水が発生。
保険金支払額
88万円
事故事例⑨:店舗内トイレ排管が詰まり厨房下の排管から汚水が漏れる。
事故日:2023年8月
事故内容・詳細
店舗内トイレ排管が詰まり厨房下の排管から汚水が漏れる。
詰まりの原因がトイレットペーパーのため免責となった。
保険金支払額
詰まりの原因がトイレットペーパーのため免責となった。保険金申請が取り下げとなった。
事故事例⑩:台風による損害を受け、屋根や外壁が破損してしまい、そこから雨水が漏水が発生。
事故日:2023年8月
事故内容・詳細
工場を建設し、引き渡しを行った。
後日、当該工場が台風による損害を受け、屋根や外壁が破損してしまい、そこから雨水が漏水し、工場内に設置されていた設備什器に甚大な損害が発生。
原因は建設業者の施工不良であることが発覚。休業損害、修理費用等の請求を受ける。
保険金支払額
3700万円
上記はすべて筆者が現場で損害対応を行った実例です。
水色の事例が火災保険、緑色の事例が賠償責任保険の事案です。
漏水損害でも、損害額の大きいものでは数百万円にものぼる事案もいくつかありました。
多くの事案で保険対応してきましたが、もし保険が未付保だったらと思うとゾッとします。
損害対応の度に保険提案の重要性を痛感してます。
漏水事故に備えるには?
ここで、上記で紹介したような漏水損害に対応する保険について解説します。
火災保険
マンションに住んでいて、上階からの水漏れにより、大切な家財道具の損害を被ったとします。
水漏れの原因が上階の住人の責任によるものであれば、当然上階の住人が損害賠償をすべき事案です。
しかしその加害者が誠意を持った対応をしてくれなかったり、保険に加入していない等の理由で十分な賠償が期待できない場合、被害者側で加入している火災保険で補償を受けることができます。
具体的には、加入している火災保険の「水濡れ」によって補償を受けることになります。
被害者が加入している火災保険で補償を受け、その分は保険会社が加害者に求償することになるのです。
なお当然ですが、火災保険で「水濡れ」補償をカバーしていない場合、補償はありません。
個人賠償責任保険
火災保険で紹介した事例は漏水被害を受けた場合の事案です。
逆に漏水を起こしてしまい、階下の住人に損害を与えてしまった場合の補償はどうでしょう。
このような場合は、個人賠償責任保険でカバーすることができます。
個人賠償責任保険とは、日常生活において、お客さまご自身またはご家族の方が、偶然な事故により法律上の損害賠償責任を負担することにより被った損害を補償します、という内容です。
個人賠償責任保険は、ほとんどの損害保険会社で取り扱いがあります。具体的に下記のような事故事例に対応するものです。
・買い物中に商品を壊してしまった。
・子供が自転車運転中に他人にケガをさせた。
・排水ホースの接続不良による漏水で階下に漏水させた。
・飼い犬が他人に噛みついてケガをさせた。
・自宅の塀が倒れ他人がケガをした。
・日本国内で友人から借りたカメラを、海外旅行先で落として壊してしまった。
・自転車を運転中に踏切内で立ち往生してしまい、電車を止めてしまった。
なお、個人賠償責任保険は火災保険や自動車保険、傷害保険等の主契約に特約として付保する方法が一般的です。
個人賠償責任保険は日常生活を安心して営む上で非常に大切な補償です。
また保険料も安くコスパの良い保険でもあります。
しっかり付保されているか必ず確認しましょう。
PL保険
漏水事故においてもPL保険がかかわってくる事案は数多くあります。
PL保険では、建設業者の施工後、工事完了後、引き渡し後の賠償事故を補償するためです。
補償の概要は下記となります。
仕事の終了後、行った仕事の結果が原因となり、他人にケガをさせたり(対人事故)、他人の物を壊したり(対物事故)したために、被保険者(保険の補償を受けることができる方)が法律上の損害賠償責任を負担された場合に被る損害を補償する保険です。(※東京海上日動 PL保険パンフレットより抜粋)
本記事で紹介した最後の事故事例のように、漏水の原因が業者の施工不良によるものであると、PL保険で対応することになります。
建設事業者にとっては必須の補償であるといえます。
まとめ
今回の記事では、筆者が実際に対応した漏水の事故事例を紹介しました。
損害保険の現場で活動していると、漏水関連の事故事例は近年非常に増えていると感じます。
特に損害が広範囲に広がれば広がるほど、損害金額も比例して大きくなります。
特に建設業者の施工不良によるものが発覚し、賠償責任を問われた場合、損害額が大きいと経営に直接的なダメージを与えかねません。
適切な保険に加入する等、しっかり備えておくことが大切です。
どのような保険が適切なのかわからない場合は、保険会社や保険代理店に相談しましょう。