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2024.12.05

D&O保険(会社役員賠償責任保険) とは?役員の訴訟リスク!事故事例をわかりやすく解説します。

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著者情報 森 逸行 FP歴15年 経験した事を伝え解決に導く『金融パーソナルトレーナー』

DO保険会社役員賠償責任保険-とは?事故事例を踏まえてわかりやすく解説します。

 会社の経営環境は、急激なグローバル化にともない、対外的には経営の透明性や内部統制の強化が重視され、会社における役員の経営手腕の重要性が増してきています。

さらに、1993年の商法改正(訴訟手数料の一律定額化)によって、訴訟提起のハードルが一気に下がったことによって、会社の役員は訴訟にさらされるリスクが増大しました。

今回の記事では、このような会社役員の訴訟リスクに大きな力となるD&O保険について解説していきたいと思います。

DO保険会社役員賠償責任保険-とは?事故事例を踏まえてわかりやすく解説します。-3

目次

役員とは

まず役員の定義について解説します。役員は、会社より会社経営を委任され、会社経営における全責任を負う立場にあります。

会社法上でも、会社と役員とは委任関係であることが定められています。

つまり、会社経営がうまくいかない、利益が出ない等、結果を出せない場合、簡単に解任させられてしまう可能性があるのです。

労働者は労働基準法によって最低限度の補償や最低賃金等の待遇が確保されている一方で、役員はある意味で非常に弱い立場にあることを示しています。 

役員の義務

役員は会社に対して様々な義務を負っている、非常に責任の重い立場にあることは想像がつくと思います。

ここでは役員が会社の内外に対して負っている義務で特に重要なものについて解説していきます。 

会社に対する責任①:善管注意義務

善良なる管理者の注意義務を略して善管注意義務といいます。

経営の専門家たる役員は、一般従業員が求められるものよりも、注意深く、高度な経営判断を求められることを表しています。

さらに善管注意義務の派生で、監視義務という概念もあります。

役員相互間で監視することで、適切な経営判断を促し、もし他の役員のした経営判断が誤っていたり、違法なものであった場合にはそれを伝える義務があります。 

会社に対する責任②:忠実義務

役員は常に会社のために忠実に業務を執行しなければならない義務をいいます。

具体的には、関係法令や株主総会での決議を遵守し、会社と競業となったり利益相反となる行動・後遺をしてはいけないといったことが該当します。 

第三者に対する責任①:不法行為責任

民法709条において、不法行為責任を下記のように規定しています。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

これを役員に置き換えると、役員の故意または過失によって会社の権利や法律上保護される利益に損害を与えた場合、当該役員はその損害を賠償する責任がある、ということを意味します。 

第三者に対する責任②:会社法

民法709条の不法行為責任と似ていますが、会社法429条でも、第三者に対する損害賠償責任を下記のように規定しています。 

役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

たとえば、重要書類の記載ミスや虚偽記載によって第三者に損害が生じた場合には、当該役員はその損害を賠償しなければならない、ということを意味します。

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会社役員の抱える訴訟リスク

ここで役員を取り巻く訴訟リスクについて解説します。 

会社からの訴訟リスク

役員は会社から経営を委任された立場にあることは前述の通りです。

結果を出せないだけでなく損害を与えた場合も訴訟を提起される立場にあります。たとえば下記のような事例です。 

『とある財務担当役員あてに届いたウイルスメールを開封し、顧客情報が流出してしまう。』

ウイルスを疑うことなく不注意に開封したことが善管注意義務に違反するものとして、会社は当該役員に損害賠償を請求した。 

従業員からの訴訟リスク

従業員の権利意識の高まりと、情報化社会の進展により、訴訟の提起までのハードルが低くなりました。

従業員からの訴訟は会社を相手取った訴訟だけでなく、役員個人に対する訴訟が提起されることもあるのです。

たとえばパワハラ・セクハラといった場合、被害者は会社に対するというよりも、加害者個人に対する恨みが強い傾向にあります。

役員個人がパワハラ・セクハラの加害者となってしまった場合は、会社に対する訴訟と同時に、役員個人に対する訴訟提起のリスクも大きくなります。 

株主からの訴訟リスク

株主代表訴訟という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

役員が会社に対する義務を全うしなかったり、損害を与えたりした場合に、役員の責任を追及するために提起する訴訟をいいます。

このとき株主代表訴訟では、本来の被害者である会社に代わって、株主が原告となって、当該役員に対して会社の損害の賠償を請求することになるのです。 

第三者からの訴訟リスク

取引先や顧客等の第三者に対して、役員が損害を与えてしまった場合、当該第三者が損害賠償を求めて訴訟を提起することが考えられます。 

このように、役員は多方面からの訴訟リスクにさらされているのです。

では、役員はこのような訴訟リスクによって生じる経済的負担に対して、どのように備えたら良いのでしょう。 

DO保険とは

損害保険会社各社より販売している保険商品で、「D&O保険」というものがあります。

DOはそれぞれDirectors and Officersを意味し、取締役や監査役等、会社役員のための保険ということになります。

簡単に言うと、会社役員としての業務が原因で損害賠償請求訴訟を提起されたことによって被る経済的損害を補償する保険です。以下、具体的な補償内容について解説していきたいと思います。 

補償内容(D&O保険で支払い対象となる損害)

D&O保険で支払い対象となる補償内容になります。

損害賠償金

裁判の判決によって支払命令を受けた損害賠償金や和解金等、法律上の損害賠償責任に基づく賠償金を指します。

ただし、税金、罰金、過料、科料等、懲罰的な意味合いのある金額は含みません。 

争訟費用

いざ訴訟を提起されると、弁護士等、法律の専門家に相談することになります。

訴訟をすべて自力で乗り切るのはなかなかハードルが高いです。

弁護士に対する報酬や着手金等、損害賠償請求に関する争訟によって生ずることになる費用が、D&O保険における争訟費用に該当します。 

各種費用保険金

役員に対して損害賠償請求訴訟が提起された場合、上記①②以外にも様々な費用が発生します。

DO保険では下記のような費用も支払い対象としています。

初期、訴訟対応費用

初期、訴訟対応費用・・・役員が負担する訴訟に関する必要文書作成費用等が該当します。

コンサルティング費用

コンサルティング費用・・・コンサルティング業者等の専門家に対する相談費用、起用にかかる費用が該当します。

調査、手続等対応費用

調査、手続等対応費用・・・公的調査等対応費用、刑事手続対応費用、財産または地位の保全手続等対応費用、信頼回復広告費用等が該当します。

緊急費用補償

緊急費用補償・・・約款に規定する費用のうち、特に緊急性が高く、保険会社の事前の同意を得る前に負担した場合に、事後的に有益かつ妥当と保険会社が認めた費用が該当します。

上記のほかにも、損害保険会社ごとに独自の様々な費用が用意されています。

加入の検討にあたっては、必ず取り扱いの有無や補償内容を確認するようにしましょう。 

D&O保険:事故事例

最後に、想定される事故の具体例を一覧にまとめたものをご案内します。

中にはいいがかりに近いような事例もあり、なかなか訴訟のリスクとなりうる事例をすべて予測するのは困難です。

D&O保険でしっかり備えておくことが大事です。 

事故事例:別会社に不当に安い金額で業務を発注し会社に損害を与えた。

訴訟形態:株主代表訴訟

役員が、当該役員が兼務している別会社に不当に安い金額で業務を発注し、会社に損害を与えた。株主がその役員と財務担当役員に対し、訴訟を提起した。

事故事例:財務状況が悪化していた取引先との取引を継続し会社に損害を与えた

訴訟形態:株主代表訴訟

取引先が倒産し、売掛金等の貸金の回収ができなくなった。十分な調査を行わず、保証や担保も取らずに、財務状況が悪化していた取引先との取引を継続した結果、会社に損害を与えたとして、株主が担当役員に対し訴訟を提起した。

事故事例:取引の実態がない企業に対する不正な資金流出が発覚

訴訟形態:株主代表訴訟

取引の実態がない企業に対する不正な資金流出が発覚した。当該不正な資金流出に関与していた役員、および関与していなかった役員に対しても、株主から善管注意義務違反を根拠に株主代表訴訟が提起された。

事故事例:従業員は不当解雇を理由として損害賠償請求訴訟を提起した。

訴訟形態:第三者訴訟

従業員が、とある営業担当役員が会社の資産を不当に私物化しているとして内部告発を行った。その結果、不当な配置転換を受け、その後解雇されることとなった。従業員は不当解雇を理由として、当該営業担当役員らに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

事故事例:従業員が、長時間労働に起因する急性心不全を発症し死亡

訴訟形態:第三者訴訟

従業員が、長時間労働に起因する急性心不全を発症、死亡してしまった。当該従業員の遺族が、役員には従業員の労働時間を適正に管理し、長時間労働が生じないよう配慮する義務があるところ、当該役員はそれを怠ったとして、安全配慮義務違反を理由に第三者訴訟を提起した。

事故事例:役員の善管注意義務違反を理由に、株主から損害賠償請を請求された。

訴訟形態:株主代表訴訟

従業員の不正取引により会社が巨額の損失を被った。役員としての善管注意義務違反を理由に、株主から損害賠償請を請求された。

事故事例:商品開発に必要な試験データにねつ造し損害賠償請求された。

訴訟形態:第三者訴訟

取引先より商品開発に必要な試験を受託していたところ、試験データにねつ造があったことが判明。結果として取引先の商品の認可は取り消され、販売停止・商品回収などの対応をさせてしまった。取引先から担当役員に対して損害賠償請求された。

事故事例:重要文書の虚偽記載を行っていたことが発覚し役員に対して損害賠償請求が提起

訴訟形態:第三者訴訟

重要文書の虚偽記載を行っていたことが発覚した。結果として会社の売上高が大幅に減少し、それに比例して生産量も当初の計画より大きく減少することに。取引先からは、設備投資にまわした資金の回収ができず甚大な損害を被ったとして会社と役員に対して損害賠償請求が提起された。

事故事例:経営環境の悪化にともない、プロジェクトへの投資が回収できず損害を被ることになった。

訴訟形態:第三者訴訟

新商品の共同開発にあたり、取引先と相互にノウハウの提供を行うことを約定していたところ、経営環境の悪化にともない、新商品の開発に消極的となりノウハウの提供を行わないこととした。結果として、提携先はそのプロジェクトへの投資が回収できず損害を被ることになった。当該提携先から会社と役員に対して損害賠償請求を起こされた。

事故事例:インサイダー取引の防止に対する善管注意義務違反によって損害賠償を請求した。

訴訟形態:第三者訴訟

従業員が、会社の保有する機密情報を悪用してインサイダー取引を行い、刑事責任を問われる事態にまで発展した。株主は担当役員らに対し、インサイダー取引の防止に対する善管注意義務違反によって、会社の社会的信用を大きく失墜させたとして損害賠償を請求した。 

まとめ

今回の記事では、D&O保険について、その補償の概要を解説しました。

会社の役員というと、一見すると華やかで、多くの人に憧れられる存在という印象を持つ人が多いのではないでしょうか。

そのような一面もある一方で、実際には会社における責任が非常に重く、訴訟リスクと隣り合わせの、非常に弱い立場であることも事実です。

一生懸命仕事していても、訴訟の敗訴によって、数千万~数億円という負債を背負ってしまう危険もあるのです。

D&O保険の補償内容をしっかり理解し、備えておくことが重要です。D&O保険は保険会社ごとに補償内容は異なりますので、加入の際にはしっかり会社の状況やニーズを伝えて適切に付保するようにしましょう。

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