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2024.07.20

業務災害補償保険と労災の違いを分かりやすく現役の社労士が解説いたします。

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業務災害補償保険と労災の違い-2 事業主にとって大きな悩みのひとつに、役員・従業員の業務中の怪我があります。

こういった労働災害は、貴重な人材を失うばかりか、見舞金等の費用負担の点でも重くのしかかってくる、とても大きな問題です。

今回の記事では、このような労働災害によって被る、事業主の費用負担を補償してくれる業務災害補償保険について解説していきます。 

労災保険制度とは

まず、政府労災について解説します。労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行う、公的な保険制度です。

原則として一人でも労働者を使用する事業は、事業の種類や規模を問わず、すべてに適用され、事業主に加入義務が発生します。

自動車でいう自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)に似た概念になります。

 【参考サイト:厚生労働省 労災補償】

労災保険の補償内容は、大きく下記の8種類に分類されます。 

・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・障害(補償)給付
・遺族(補償)給付
・葬祭料・葬祭給付
・傷病(補償)年金
・介護(補償)給付
・二次健康診断等給付

療養(補償)給付

療養(補償)給付・・・傷病で療養するとき

休業(補償)給付

休業(補償)給付・・・傷病の療養によって休業し、賃金を受け取れないとき

障害(補償)給付

障害(補償)給付・・・傷病の治癒後、障害等級第1~14級の障害が残ったとき

遺族(補償)給付

遺族(補償)給付・・・労災事故によって死亡したとき

葬祭料・葬祭給付

葬祭料・葬祭給付・・・死亡した人の葬祭を行うとき

傷病(補償)年金

傷病(補償)年金・・・傷病が療養開始後1年6か月を経過した日または同日後において、一定の要件に該当したとき

介護(補償)給付

介護(補償)給付・・・障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているとき

二次健康診断等給付

二次健康診断等給付・・・事業主が行った直近の定期健康診断等(一次健康診断)において、一定の要件に該当するとき

※通勤災害の場合、(補償)の文字はつきません。

 補償内容の詳細につきましては、下記参考サイトのP8~9をご確認ください。

 【参考サイト:厚生労働省 労災保険給付の概要】

労働災害総合保険とは

次に、保険会社各社より販売している労働災害総合保険について解説します。

通称、労災の上乗せ保険と呼ばれ、政府労災で不足する補償を補う法人保険であり、損害保険の一種です。

建設業や製造業といった、特に労災事故のリスクの高い業種にとっては必須の保険といえます。

 【参考サイト:厚生労働省 令和5年の労働災害発生状況を公表】

政府労災への加入が義務付けられているのだから、わざわざ労災の上乗せ保険に加入する必要なんてないのではないか、と思われるかもしれません。

たしかに従業員が業務中や通勤途上に怪我を負い、労災認定されたら給付を受けることはできます。

しかし、その補償額は、決して従業員やその遺族が満足できるほど充分なものではありません。

そういった不足を補う意味で、労災上乗せ補償は法人にとって必須の保険といえます。

ここで労働災害総合保険の補償内容について簡単に触れたいと思います。

基本的には政府労災と支給要件は連動しています。

労災の認定を条件として、労働災害総合保険からも上乗せの補償を受けることができるという仕組みです。

しかし、労働災害総合保険ならではの大きな特徴があります。

それは、特約を付帯することで補償範囲を広げることができるという点です。

特約の種類は保険会社各社により取り扱いが異なりますが、今回特に重要な特約である、使用者賠償責任保険について触れたいと思います。 

使用者賠償責任保険とは

従業員が業務災害で被った怪我等によって、会社側に責任があるとして損害賠償を求められた際、賠償金や争訟費用等の費用を補償してくれるものです。

 【参考サイト:東京海上日動 使用者賠償責任保険】

 近年、従業員に対する賠償金の額は年々増加傾向にあります。場合によっては何千万円、何億円なんて額にのぼることもあります。

こういった費用負担が発生してしまうと、企業にとっては経営を揺るがす程の大きな経済的ダメージとなります。

このような費用を捻出するのは容易ではありません。効率よく賄うために、使用者賠償責任保険を特約として付保することが重要です。

業務災害補償保険と労災の違い-1

業務災害補償保険とは

労働災害総合保険と同様に、保険会社各社より販売している業務災害補償保険について解説します。

業務災害補償保険とは、労災に関わるリスクを総合的に補償する保険で、保険会社各社より販売されている、比較的新しい損害保険です。

従来からある労働災害総合保険と同様、労災の上乗せを目的とした保険になりますが、労働災害総合保険にはない大きな特徴があります。

その特徴を3つ紹介します。

特徴①:労災認定を待たず、スピーディーな保険金給付が得られる

特徴②:特約の幅が広い

特徴③:保険料が高い

特徴①:労災認定を待たず、スピーディーな保険金給付が得られる

業務災害補償保険の最大の特徴であり、かつ事業主にとって一番うれしい特徴が労災認定を待たずに保険金給付を受けることができる点です。

一般的に労災は認定までに時間がかかります。長いケースだと認定まで半年を要することもあります。

その点、業務災害補償保険は、保険金の支払いに労災認定を要件としておりません。

保険会社へ事故報告し、保険金請求書とその他添付書類を提出すれば、保険金の給付を受けることができるのです。 

特徴②:特約の幅が広い

業務災害補償保険の特徴の二つ目として、付帯できる特約が多いという点が挙げられます。

保険会社によって取り扱う特約は異なりますが、主な特約を下記に紹介します。 

天災危険補償特約

通常、支払対象外となる地震や噴火、津波によって生じた損害については保険金の支払い対象外となりますが、この特約を付帯することで、このような事由においても保険金支払いの対象となります。

雇用慣行賠償責任補償特約

ハラスメントや不当解雇等の不当行為により従業員から損害賠償請求がなされた場合、事業主が負担する訴訟費用等を補償します。

フルタイム補償特約

業務外において発生した事故による怪我についても保険金を支払う特約です。

事業者費用補償特約

従業員が業務中の事故等で死亡した場合で、事業主が負担した葬儀費用、香典、花代等といった葬儀関連費用を補償します。 

特徴③:保険料が高い

業務災害補償保険は非常に充実した補償内容となっております。

その反面、保険料は同種の保険である労働災害総合保険と比較し、割高な水準となっています。

保険料の例を参考までに記載いたします。

 【参考サイト:三井住友海上 業務災害補償保険 保険料例】

 参考:リスク診断割引、商工団体を活用した割引制度あり

特徴③で説明したように、業務災害補償保険の保険料は非常に高い水準になっています。

しかし、リスク診断割引や、商工団体を活用した保険料の割引制度が整備されています。それぞれについて説明します。 

リスク診断割引

保険会社所定の質問項目に回答することにより、最大2030%の保険料の割引が適用できます。

質問項目の例を下記ご案内いたします。 

・保険契約締結時点で、ISO9001、ISO14001、ISO22000ISO45001、HACCPのいずれかの認証を 取得済(全事業所・一部事業所を問いません)ですか。

・安全衛生管理規定を作成している、または中小企業庁「事業継続力強化計画」の認定を受けていますか。

・「ゼロ災運動」、「危険予知訓練(KYT)」等、職場の安全管理に取り組んでおり(中央労働災害防止協会へ の登録の有無は問いません)、文書(電子媒体形式を含みます)により、その記録が確認できますか。

業務災害補償保険と労災保険制度の違いは?

ここで、業務災害補償保険と労災保険制度の大きな違いについて3つのポイントで整理したいと思います。

ポイント①:任意加入か強制加入か

労災保険制度、いわゆる政府労災は、従業員が一人でもいる場合、事業主には必ず加入しなければならない義務があります。

この場合の従業員は正社員の場合のみならず、パートやアルバイト勤務であっても同様です。

【参考サイト:厚生労働省 労災補償】

これに対して、業務災害補償保険は労災上乗せ保険とも呼ばれ、政府労災の不足部分を補うことを目的に、民間の保険会社で取り扱っている任意加入の損害保険です。

業務災害補償保険は、労災保険制度では補償されない慰謝料や訴訟対応費用についても補償することができます。

【参考サイト:あいおいニッセイ同和 タフビズ業務災害補償保険】

ポイント②:給付までの時間

政府労災は認定から実際に給付されるまでに、非常に長い日数を要します。

請求書を受理してから認定までの期間が平均4か月程度かかる、と謳っているサイトもあるほどです。

障害や介護といった、認定までに日数を要するものもあれば、休業(補償)給付など、請求内容に問題がなければ比較的早期に給付できるものもありますので、一概には言えないものの、やはり世間的には労災認定には時間がかかるとのイメージはあるようです。

それに対して業務災害補償保険は政府労災とは比較にならないほどの早期の給付が可能です。

業務災害補償保険は政府労災の認定を必要とせず、保険会社所定の保険金請求書の提出があれば審査を進めることができます。

スピーディーな給付は、事業主にとっては非常にうれしい点です。

ポイント③:保険金の受取人

政府労災は支給申請したものについては、基本的に被災労働者本人やそのご遺族に直接支払われます。

【参考サイト:労働者災害補償保険 休業補償給付支給申請書】

 【参考サイト:労働者災害補償保険 遺族補償年金支給申請書】

 上記申請書において、それぞれ被災労働者やご遺族の受取口座の記載欄が確認できると思います。

それに対して、業務災害補償保険では、保険金の受取人を法人に指定することが可能です。

法人がいったん受け取り、社内の災害補償規程に則って被災労働者やそのご遺族に支給するという取り扱いが可能です。

この取り扱いによって、被災労働者やそのご遺族も会社に対する心証を良くする効果があります。

その後の訴訟リスクを抑える意味でも、この取り扱いは非常に大事です。 

商工団体を活用した保険料の割引制度

商工団体のスケールメリットを活かすことで、保険料を割り引くことができます。

なお、商工団体が包括加入者となって損害保険会社と契約し、各地の商工会議所の協力のもとに運営していることから、商工会議所会員でないと加入できないという点には注意が必要です。 

【参考サイト:損保ジャパン 商工会議所会員の皆さまへ 業務災害補償プラン】

まとめ

業務災害補償保険は、業務災害リスクの高い業種を営んでいる多くの企業が加入しています。

近年では労災事故をめぐる民事訴訟で、数千万円~1億円超の高額賠償事例も出てきていて、政府労災だけでは補償を充分に得られない場合も多くなっています。

業務災害補償保険は補償内容が充実している分、保険料も高い水準になっています。

保険会社独自の割引制度や商工団体のスケールメリットを活かした割引制度を活用し、合理的な保険料で加入を検討することをおすすめします。

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