企業財産包括保険とは?事業活動総合保険や火災保険の違いを分かりやすく解説

火災や台風、水災といった自然災害によって住宅が損害を受けた場合に備えて、多くの人が火災保険に加入します。
これを企業に置き換えるとどうでしょう。企業は、その規模が大きくなると、本社建物だけでなく支社の事務所建物や工場等、様々な財物を所有することが考えられます。
一般の住宅用の火災保険で、企業を取り巻く財物のリスクをカバーすることができるのか、疑問に思われる人も多いのではないでしょうか。
このような疑問に解決する保険として、企業財産包括保険というものがあります。
今回の記事では、企業財産包括保険について解説していきたいと思います。
目次
企業財産包括保険とは
企業の財産を、自然災害等、万が一の損害に備えて補償してくれる企業財産包括保険ですが、まずは大きな2つの特徴について説明します。
特徴1:補償の範囲
企業財産包括保険では、企業が所有する事務所や工場建物、設備什器といった、すべての資産が補償の対象となります。
企業は新たな事務所や工場を開設したり、逆に閉鎖したりと、資産の出入りが多いのが特徴です。
企業財産包括保険では、このような資産の動きが保険期間中に発生しても、自動的に補償される仕組みとなっています。
補償の漏れの心配が不要なのが特徴です。
また、補償対象とする事故について、一般の火災保険と比較してもほぼ同内容での補償を担保できるようになっています。
主な補償対象の事故を下記にご案内します(保険会社によって補償内容は異なります。詳細は必ず事前に確認するようにしましょう)。
●風災・雹災・雪災
●水災
●電気的・機械的事故
●1~4以外の不測かつ突発的な事故
※AIG損保 企業財産包括保険パンフレット お支払いの対象となる事故 より抜粋
特徴2:休業した場合の補償
事故によって企業が所有する資産に損害を受け、結果的に営業活動ができず休業せざるを得なくなった場合の補償があるのも、企業財産包括保険の大きな特徴です。
休業していても企業として固定費はかかります。
事務所の家賃であったり、従業員の給与等の人件費であったり、これらの費用は企業として支払わなくてはなりません。
なお、休業した場合に受けられる補償は下記となります(保険会社によって補償内容は異なります。詳細は必ず事前に確認するようにしましょう)。
利益損失補償
利益損失補償・・・事故によって保険の対象が損害を受けたことにより、営業が休止または阻害された場合などに生じた利益損失(喪失利益および収益減少防止費用)を補償。
営業継続費用補償
営業継続費用補償・・・事故によって保険の対象が損害を受けたことなどにより支出した、営業を継続するために必要かつ有益な費用のうち、通常要する費用を超える部分(追加費用)を補償。
※AIG損保 企業財産包括保険パンフレット 基本となる補償 より抜粋
企業財産包括保険と火災保険の違い
ここで企業財産包括保険と火災保険の違いについて触れたいと思います。
企業財産包括保険も大きな括りでいえば火災保険に分類されます。
企業財産包括保険はその名の通り、企業の財産を包括的に補償することができます。
保険期間の途中で資産の出入りがあっても、自動的に補償対象とされる為、資産の入れ替えの機会の多い企業にとっては付保漏れの心配もなく、安心です。
その一方で扱う保険金額も大きなものとなるため、火災保険と比べて保険料は高くなります。
全国各地に事業所や工場を持つ、比較的規模の大きな企業向けの保険です。
それに対して火災保険は、基本的に対象となる資産を指定して保険金額を設定します。
企業財産包括保険と比較すると保険料も低廉になるため、小規模の企業向けの保険と言えます。
補償を拡張する特約
企業財産包括保険も他の損害保険同様、補償内容を拡張できる特約が用意されています。
その一例を下記に紹介します。
特約①:業務用通貨等盗難補償特約
事務所には現金をなるべくおかないという企業が多くなってきていますが、それでも業務用の通貨や小切手など、まったく置かない企業はないのではないでしょうか。
これら業務用通貨・預貯金証書の盗難損害は特約を付帯することで、補償の対象とすることができます。
特約②:借家人賠償責任補償特約
事務所建物を賃借している場合、建物に損害を与えてしまうと、建物オーナーに対して損害賠償をしなければなりません。
そのような場合に備えて損害賠償を補償する特約が「借家人賠償責任補償特約」です。
なお、企業財産包括保険ではこの特約を付保することで、契約者が借りている事務所や工場、店舗を包括的に補償対象とします。
保険期間の途中で新たに物件を借りたりしても自動的にカバーされるので、付保漏れの心配がないのが特徴です。
特約③:地震危険補償特約
企業財産包括保険では、地震による損害はもちろんのこと、火災であっても、その原因が地震によるものであると補償の対象外となります。
地震危険補償特約を付帯することで、地震原因となる損害についても補償対象とすることができます。
特約④:家賃補償特約
賃貸用に所有する建物が火災、落雷、破裂・爆発または風災、雹(ひょう)災、雪災により損害を受け、使用できなくなってしまった場合の家賃の損失を補償します。
割引制度の紹介
企業財産包括保険でも、多くの損害保険同様、割引制度があります。
主要な割引制度をいくつか紹介します。
消火設備割引
消火設備割引・・・自動火災報知機、スプリンクラー等、所定の消火設備の設置が確認できると保険料の割引が適用されます。
セキュリティ割引
セキュリティ割引・・・火災監視システム等、所定のセキュリティが導入されていることが確認できた場合、保険料の割引を受けることができます。
新築建物割引
新築建物割引・・・契約対象の建物が新築年月から11か月未満等の要件を満たす場合に割引が受けられます。
新築建物の基準を満たさなくても、築年数が10年未満の場合に適用される築浅割引制度の取り扱いのある保険会社もあります。
なお、保険会社によって取り扱っている割引制度は異なります。
契約を検討する際には必ず適用できる割引制度について保険会社に確認するようにしましょう。
提案事例
ここで、筆者や同僚が、実際に企業に対して企業財産包括保険を提案した際の事例をいくつか紹介したいと思います。
どの事例も、企業がリスク管理において抱えている課題を、企業財産包括保険によって解決できることで、成約に結び付いたというものになっています。
ぜひ参考にしてください。
事例:工場・倉庫を全国に複数持つ機械部品メーカー
【企業プロフィール】
●拠点:本社工場(関東)、第2工場(関西)、物流倉庫(東北)ほか、営業所含め全国5拠点
●従来の保険:各拠点ごとに火災保険を個別に契約(内容も保険会社もバラバラ)
【課題点(ヒアリング時に判明)】
●各拠点の保険更新や契約管理が煩雑(各拠点ごとに火災保険は契約しているため、補償内容から保険期間、更新時期までバラバラであった)。
●拠点ごとの契約により、補償範囲にバラつきや補償のモレ・重複が発覚。
●設定保険金額の見直しがされておらず、前年同条件による契約更改を繰り返した結果、過剰契約・過小契約が混在してしまった。
●本社の管理部門の人員が小規模体制で、リスクマネジメントにまで手が回っていなかった。
【提案内容:企業財産包括保険への一本化】
●全国5拠点の建物・設備・在庫・什器を、1ポリシーにてまとめて補償。
●拠点ごとのリスクを分析し、最大リスクの拠点に合わせた支払限度額を設定。
●拠点の追加・削除・設備更新があった際も柔軟に変更可能な契約設計。
●一括契約にすることで、保険料の合算管理+ボリュームディスカウントが可能に。
●本社一括管理にし、管理担当者向けに保険証券の統一したことで、管理の簡略化を実現。
●必要に応じて、営業休止補償や地震・水災特約も組み合わせ可能に。
【導入後の効果一覧】
項目 | 導入前 | 導入後 |
---|---|---|
保険会社 | 3社に分散 | 1社に統一 |
補償内容 | 拠点ごとにバラバラ | 一元化+補償アップ |
管理負担 | 拠点で管理しているところもあれば、本社で管理しているところもあり、バラバラであった。 | 本社で一括管理。管理が簡略化。 |
保険料 | 全体で年間約580万円 | 約500万円に削減(約13%減) |
経営者と管理担当者の声
経営者からは「補償の可視化とコスト削減、両方実現できた」と高評価をいただき、管理担当者からは「年間の作業が半分以下になった」と感謝の声を頂きました。
【成功のポイント】
2.現場設備の内容・更新状況を把握して保険金額を適正化
3.「保険の一元管理」がもたらす業務負荷軽減とコスト削減を明確に提示
4.管理者・経営者どちらの視点にも配慮した提案資料
上記の事例は筆者が数年かかって通いつめて、成約にいたった事例です。
何度もヒアリングを重ねるうちに、リスクがだんだんと見える化していき、情報提供活動も重ねた結果、成約することができました。
もっとも紹介したかった事例でもあります。
その他にも同僚が成約に至った事例もいくつか紹介したいと思います。
事例:金属加工業(中規模/自社工場あり)
■相談背景■
地方都市に本社工場を持つ金属加工会社。
工作機械やレーザー加工機などの高額設備が導入されており、火災や故障時のリスクを懸念していた。
■提案内容■
●建物・機械設備・在庫品までを一括補償する「企業財産包括保険」を提案
●高額機械に対して「再取得価額」で設定
●電気的・機械的事故に備えた機械保険の特約を付帯
●製造停止による損失を補償する休業補償保険も併せて提案
■結果■
他の保険と比べて包括的であり、万が一の操業停止リスクにも備えられるという点が評価され、契約獲得に成功。
事例:食品製造業(小規模/冷蔵設備あり)
■相談背景■
惣菜や弁当の製造販売を行っている中小企業。
冷蔵・冷凍設備の故障や、火災リスクを不安視していた。
■提案内容■
●企業財産包括保険で、冷蔵設備・厨房・在庫品を補償。
●冷蔵設備の電気的故障に備えた電気的・機械的事故補償特約を追加。
●衛生管理が重要な業種なので、商品腐敗・変質特約もセット。
●原材料価格の高騰に備えて、在庫の保険金額をしっかりとした金額を設定。
■結果■
自社に合わせた補償設計ができる点に納得し、成約。今回の提案が評価され、同社がもつ他の保険契約もまとめて移管していただけることとなった。
事例:プラスチック成形業(多拠点あり/グループ経営)
■相談背景■
複数の工場(本社・支社・海外協力工場)を持つ製造業。
拠点ごとに個別の火災保険を契約しており、管理に要する人的コストがかかっていた。
■提案内容■
●企業財産包括保険で、国内拠点を一括管理できるプランを設計。
●工場ごとにリスク評価し、保険金額を最適化。
●契約の一元管理により、補償モレ・重複を解消。
●経営者向けに、グループ全体でのリスクマネジメント説明会を実施。
■結果■
契約内容の整理とコスト最適化ができたことで、経営層から高評価を受けた。
グループ全体で契約切替に成功。
事例:印刷業(老朽化設備あり)
■相談背景■
創業30年以上の印刷会社。
建物・設備ともに老朽化が進んでいたが、再取得価額での補償は不要と考えていた。
■提案内容■
●建物・機械を「時価」で設定し、保険料を抑えたプランを提案
●火災・水漏れによる印刷物(顧客の委託品)にも補償が必要だったため、受託物特約を追加
●今後の更新・設備投資に応じて、補償範囲を調整できる設計を提示
■結果■
切り替え前の契約内容を、契約者自身が理解していなかった。
老朽化設備に対し、補償内容がオーバースペックであったこと説明、理解していただく。
結果、コストと補償のバランスが良く、他社より柔軟な対応を評価され、当社の提案が採用された。
Q&A:企業財産包括保険に関する質問と回答
最期に、企業財産包括保険に関するQ&Aを紹介します。
現場でよく聞かれる内容をピックアップし、わかりやすく回答しております。
特に、全国各地に拠点のあるような企業経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
質問:企業財産包括保険に切り替えるメリットは何ですか?
製造業の経営者です。従業員は総勢で300名ほどいて、本社は東京ですが、東北と中部、関西に製造拠点があります。
つい先日、父から継いだばかりの、いわゆる二代目社長です。まず管理部門から着手しようと、損害保険の付保状況のチェックを始めました。
すると、拠点ごとに火災保険を契約していることがわかりました。
なんだかわかりにくいなと直感的に思っているのですが、企業財産包括保険に切り替えることで、私のモヤモヤは解消されるでしょうか?
わかりにくい質問ですみませんが、教えてもらえるとうれしいです。
回答|ズバリ、管理を簡略にし、補償の最適化が期待できることです。
企業財産包括保険に切り替える最大のメリットは、「契約の一元化」と「補償範囲の最適化」にあります。
拠点ごとに個別に火災保険を契約していると、保険内容や契約期間がバラバラになり、更新漏れや補償の重複・不足といったリスクが生じます。
おそらく質問者様は、このあたりのリスクにモヤモヤを感じているのではないでしょうか?
企業財産包括保険では、本社・工場・倉庫・営業所など、複数拠点を一つの契約で包括的に管理でき、すべての拠点の財産(建物・設備・什器・在庫など)に対して、統一された補償設計が可能です。
また、補償の見直しや拠点追加も柔軟に対応できるため、事業の変化に追従しやすい点も特長です。
結果として、リスク管理の精度向上と管理コストの最適化が同時に実現できます。
管理の煩雑さから解放され、場合によっては保険料コストの引き下げ効果も期待できます。
御社のように、全国に複数の拠点を持っている企業様は、企業財産包括保険への切り替えが非常におすすめです。ぜひ検討してください。
質問:企業財産包括保険では、生産が止まった場合の補償はありますか?
小さな規模ではありますが、強化プラスチックの部品を製造している者です。
本社の什器や備品、製造拠点の機械に対しては、しっかり火災保険をかけて、自然災害のリスクには備えています。
火災等が発生し、機械等が損害を被ったとしても、機械の修理費や再調達費用はカバーできるのですが、操業が止まってしまった場合の補償までを保険でカバーすることはできるのでしょうか?
弊社は製造業なので、ものを作れないとなると、利益を産むことができないのです。
企業財産包括保険に加入した場合、火災や事故によって生産が止まってしまった場合の損害を補償することはできるのでしょうか?
回答|特約を付帯することで「営業休止による損失」や「逸失利益」をカバーできます。
基本的な企業財産包括保険は、保険の基本構造が火災保険であるため、物的損害(建物や機械設備、什器備品など)の補償が中心となります。
したがって、生産ラインが火災で停止し、それによって営業機会を失ったり、納期遅延による損害が発生しても、直接的には補償されません。
このような「営業休止による損失」や「逸失利益」をカバーするには、「利益保険(営業休止補償特約)」の付加が必要です。
この特約を付けることで、災害等で事業が中断した際の利益損失や、固定費の支払いに対する補償が得られます。
製造業の場合、生産の停止が大きな損失につながるため、企業財産包括保険とセットでこの特約を検討することが非常に重要です。
質問:企業財産包括保険は、どのような企業に向いている保険ですか?
初めまして。質問させていただきます。
私は以前は普通の会社員として働いていましたが、会社員時代に不動産投資を始め、全国各地に物件を持つまでに至ったので、脱サラして不動産管理会社を立ち上げました。
以来、15年になります。保有する不動産も順調に増やし、今では北は青森、西は兵庫にまでとなりました。
先日、企業財産包括保険という保険の提案をされたのですが、私のような不動産管理会社にとってメリットのある保険なのでしょうか?
そもそも企業財産包括保険はどのような業種・企業に向いている保険なのでしょうか?
提案を受けたとき、あまりピンと来なかったので、教えてください。
回答|複数の拠点がある企業であれば、業種は問いません。
企業財産包括保険といえば、まっさきに全国に複数の製造拠点を持つ製造業が浮かぶかと思いますが、必ずしも製造業者のためだけの保険ではありません。
複数の拠点や施設、工場を保有する企業であれば、業種を問わず適しているといえます。
たとえば、製造業以外にも、小売業、物流業、不動産管理業などが該当します。
質問者様のように、全国各地に不動産を保有されている方にも適した保険であると言えます。
また、以下のような企業には特に様々な面でメリットが期待できます。
●拠点ごとの契約管理に時間がかかっている企業
●契約内容や補償範囲にバラつきがある企業
●事業拡大・再編などで拠点の変動がある企業
●保険料や契約の適正化を検討している企業
一元管理によって保険の「見える化」ができるため、経営的なリスク管理の一環として導入する企業も増えてきています。
さらに一元管理することで管理コストが期待でき、さらに引き受ける保険会社によっては、大型契約による割引も期待できます。
このあたりは必ず保険会社に確認してみましょう。
質問:企業財産包括保険ではどのような財産が補償対象となりますか?
精密機器部品を製造しています。先日、保険会社の営業担当者より企業財産包括保険を受け、コストが安く、補償もアップするという内容だったので、契約しました。
ところが恥ずかしい話、補償内容はしっかり理解していないのです。
建物や机や椅子といった什器・備品類は補償の対象となるのはわかっているのですが、他にはどのような財物が補償対象となるのでしょうか?
回答|建物や什器から機械、装置、製品まで、幅広く補償します。
質問者様仰る通り、建物や什器備品はもちろん補償の対象となります。
その他にも企業財産包括保険では以下のような財物を補償対象としています。
●原材料・部品
●在庫品
●仕掛品
●完成品
●事務所や研究所の備品類
たとえば、火災や水害などにより在庫や原材料、仕掛品、製品が損傷・喪失した場合でも、その損害は保険金でカバーすることができるのです。
なお保険金額は、什器備品の場合は取得価格、商品や製品の場合は製造原価をもとに設定するのが一般的です。
また、保険金額の設定や補償を組む際には、いくつかのポイントがあります。
下記にその一例を紹介します。
●危険物取扱工場では保険料が高くなる傾向がある
●製造工程が複雑な場合、損害調査に時間がかかることがある
●業種や業態に合った補償設計(特約の選択)が重要
質問者様は企業財産包括保険に切り替えた際に、コストダウンと補償アップを実現されたということですが、上記のポイントを踏まえて適正な補償が組まれているか、しっかり理解することをおすすめします。
まとめ
今回の記事では、企業財産包括保険について解説しました。
全国各地に拠点を置く、比較的大規模な企業向けの火災保険です。
資産の出入りの機会が頻繁にあっても自動的に補償対象となる仕組みがあるので、事務的な面で管理が非常に楽です。
また、通常の火災保険には備わっていない、休業の場合の補償を付保することができるのも大きな特徴です。
経営者の大きな仕事・責任として、リスクに備えるということが挙げられます。
その点で企業財産包括保険は最適な保険であるといえます。
保険の設計の仕方など、少しでも疑問がある場合は保険会社や保険代理店に相談して、合理的にリスクに備えましょう。