建設工事・解体業での物損事故!請負業者賠償責任保険金支払い事例と質問の回答を解りやすく解説

建設工事を営んでいる事業者は、様々なリスクを想定しなければなりません。
作業員の労災リスク、第三者に対する賠償リスク、工期を遅延することによるリスク等、様々なことが起こり得ます。
さらに第三者に対する賠償にしても、その第三者にケガや後遺障害を負わせてしまったのか、物を壊してしまったのか等、さらに細分化していかなくてはなりません。
今回の記事では、建設事業者が考えるべきリスクで、第三者に対する物損害という点に絞って考察したいと思います。
目次
- 1 物損事故とは?
- 2 請負業者賠償責任保険とは
- 3 実際の保険金支払事例を紹介
- 3.0.1 事故内容・詳細:作業中に壁に穴をあけた際、配管を切断してしまった。
- 3.0.2 事故内容・詳細:店舗解体時に鉄の梁にぶつけた。
- 3.0.3 事故内容・詳細:解体工事作業中、プレハブの階段を重機でへこませる。
- 3.0.4 事故内容・詳細:作業中にユンボが横転。建物に大損害を与える。
- 3.0.5 事故内容・詳細:解体作業中、付近のブロック塀を破損。
- 3.0.6 事故内容・詳細:解体作業中、付近の建物の壁・シャッターを破損。
- 3.0.7 事故内容・詳細:工事中に誤って付近の物置を破損。
- 3.0.8 事故内容・詳細:道路上空の架空線に接触し、切断させてしまった。
- 3.0.9 事故内容・詳細:誤って埋没されていた給水管を破損させてしまう。
- 3.0.10 事故内容・詳細:解体作業中にレンタルユンボが鉄骨にあたり破損させてしまう。
- 3.0.11 事故内容・詳細:解体作業中、現場近くに停車していた自動車に破片が飛び、破損させてしまう。
- 3.0.12 事故内容・詳細:解体作業中、解体予定のない壁を壊してしまう。
- 3.0.13 事故内容・詳細:解体作業中に足場が倒れて水道管を破損させてしまう。
- 3.0.14 事故内容・詳細:作業中、ハンドル操作を誤った重機が隣家建物に接触。損害を与える。
- 3.0.15 事故内容・詳細:解体作業中、コンクリートにレンタルユンボのアームが当たり、大規模な破損となる。
- 3.0.16 事故内容・詳細:建設作業中、作業ミスから隣の家の雨どいを破損させてしまう。
- 3.0.17 事故内容・詳細:ブランケットアームがコンクリートの基礎に当たり、破損させてしまう。
- 3.0.18 事故内容・詳細:隣の駐車場に停めてあった車に落下、傷を負わせてしまう。
- 3.0.19 事故内容・詳細:近くに停めてあった高級車に当て、キズをつけてしまった。
- 3.0.20 事故内容・詳細:ユンボでコンクリートを解体中、隣のブロック塀を引っ張ってしまい破損させてしまった。
- 3.0.21 事故内容・詳細:解体作業中、隣家のフェンスを壊してしまった。
- 3.0.22 事故内容・詳細:解体作業中に重機が隣家に当たり壁を壊してしまった。
- 3.0.23 事故内容・詳細:建設作業中、隣のアパートの壁破損させてしまった。
- 3.0.24 事故内容・詳細:エアコン設置工事で穴をあける箇所を間違えてしまった。
- 3.0.25 事故内容・詳細:足場組立時にパイプが落下させ、隣家の扉に当たり破損させてしまった。
- 3.0.26 事故内容・詳細:駐車場と道路のアスファルト破損。
- 3.0.27 事故内容・詳細:外壁工事の足場の設置作業中、単管をカーポートの屋根に落下させて破損させた。
- 3.0.28 事故内容・詳細:整地作業中、ガス管を破損させてしまう。
- 3.0.29 事故内容・詳細:作業中にガス管破損、隣の飲食店が休業せざるをえなくなる
- 3.0.30 事故内容・詳細:作業中、隣家の壁、パイプ、室外機等を破損させてしまう。
- 4 Q&A:請負業者賠償責任保険に関しての質問と回答
- 5 まとめ
物損事故とは?
そもそも物損事故とはどういった事故を指すのでしょう。
一般的な解釈として、人のケガは発生しておらず、物の損害のみが発生した事故を指します。
一見すると自動車事故に多いように思われがちですが、何も自動車事故に限った話ではありません。
冒頭にお話したように、建設工事現場での作業中にも物損事故は十分に起こりうる事故です。
特に建設工事現場ではその規模によっては非常に高額の損害に発展してしまうケースもあるのです。
物損事故は、建設事業者にとって決して軽視できない問題です。
建設工事現場で事故が起きた際、責任を負うのは?
たとえば建設工事現場における解体作業中に、高層の足場から工具を落としてしまい、隣家の駐車場に停めてあった自動車に損害を与えてしまったとします。
このケースで、自動車に損害を与えてしまった責任は、誰が負わなくてはならないのでしょう。
このような場合、原則として解体作業をしている工事業者が損害賠償責任を負うことになります。
実際に工具を落としてしまった作業員個人は、作業に起因する事故の為、責任を負うことはありませんが、責任を問われることもあります(民法715条より)。
今回の事例では一目瞭然ですが、通常、建設工事現場で第三者に損害を及ぼす場合、施工のどこかに過失が存在することがほとんどです。
そのため、民法709条の不法行為として工事にあたった業者が責任を負うことになるのです。
民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
ただし例外もあります。建設工事においては発注者から具体的な指示があったり、発注者が工事に必要となる材料や道具を提供する場合もあります。
この場合で発注者からの指示や提供された材料、道具が原因で損害が発生した場合は発注者に過失ありとみなされ、発注者が損害賠償責任を負うことになるのです。
責任の所在が工事業者にあろうと、発注者にあろうと、建設工事現場で起こる第三者に対する賠償責任は、損害額が甚大になる危険をはらんでいます。
このような賠償責任を補償するために、請負業者賠償責任保険を適切に付保することが必要です。
請負業者賠償責任保険とは
請負業者賠償責任保険は建設工事業者にとって必須の保険です。
この保険は、請負工事や建設工事の作業にあたって、誤って第三者の身体にケガを負わせてしまったり財物に損害を与えてしまったりした場合の、建設工事業者が負うべき法律上の賠償責任を補償するものです。
補償対象となる工事
建設工事業者が請け負う工事であれば、どんなものでも補償内容となるわけではありません。
保険会社によって取り扱いは異なりますが、一般的には下記の通りとなります。必ず契約前に保険会社に確認するようにしましょう。
・各種地下工事
・道路建設工事
・道路等の舗装工事
・軌道建設工事
・ビル建設工事
・橋りょう建設工事
・各種建築物設備工事
・移動・解体・取壊工事
・プラント・機械装置の組立・据付工事
・高層構築物(鉄塔・高架線等)建築工事
・建築 物設備・機械装置等の改修または維持工事
・土地造成工事、荷役、清掃、造園、芝刈・草刈作業、除草作業、殺虫殺そ(害虫等駆除)
・引越、運送、撮影・取材、除雪、調査・測量、放置車両確認業務、ビルメンテナンス業務
(※某王手損害保険会社の請負業者賠償責任保険のパンフレットより抜粋)
補償対象となる主な場合
請負業者賠償責任保険の補償対象として想定している事故例は下記の通りです。
請負作業中の損害
・ビル改築工事中に高層の作業現場より工具を過失により落としてしまい、通行人にケガを負わせた。
・足場の備え付けの不備により倒壊を起こし、たまたま通りかかった自動車の上に落とし、キズをつけてしまった。
請負作業遂行のために所有、使用または管理している施設の欠陥、管理不備による事故
・資材置き場においてあった工具類が倒れてしまい、たまたま通りかかった通行人にケガを負わせた。
支払い対象となる損害
請負業者賠償責任保険では、どのような保険金を受け取ることができるのでしょう。
某大手損害保険会社のパンフレットでは、支払い対象となる損害として下記6種類の費用を規定しています。
●損害賠償金
●損害防止費用
●権利保全行使費用
●緊急措置費用
●協力費用
●争訟費用
上記6種類は基本補償であり、保険会社ごとの相違点はなく、ほぼ全社統一の取り扱いとなっています。
なお各費用の解説は、下記サイトにて詳しく説明していますので、参考にしてください。
【関連記事:生産物・PL保険賠償事故!損害保険金支払い事例17件を一挙公開】←リンク
実際の保険金支払事例を紹介
最後に、実際に対応した保険金の支払い事例を紹介します。
事故内容・詳細:作業中に壁に穴をあけた際、配管を切断してしまった。
保険金支払額:240,900円
事故内容・詳細:店舗解体時に鉄の梁にぶつけた。
保険金支払額:434,800円
事故内容・詳細:解体工事作業中、プレハブの階段を重機でへこませる。
保険金支払額:410,300円
事故内容・詳細:作業中にユンボが横転。建物に大損害を与える。
保険金支払額:3,480,020円
事故内容・詳細:解体作業中、付近のブロック塀を破損。
保険金支払額:624,800円
事故内容・詳細:解体作業中、付近の建物の壁・シャッターを破損。
保険金支払額:469,800円
事故内容・詳細:工事中に誤って付近の物置を破損。
保険金支払額:386,000円
事故内容・詳細:道路上空の架空線に接触し、切断させてしまった。
クレーン積載トラックにて工具・資材を運搬中、ブームが伸ばしたままになっており、道路上空の架空線に接触し、切断させてしまった。
保険金支払額:3,823,400円
事故内容・詳細:誤って埋没されていた給水管を破損させてしまう。
転落防止用の手摺り設置工事において、誤って埋没されていた給水管を破損させてしまう。
保険金支払額:1,628,300円
事故内容・詳細:解体作業中にレンタルユンボが鉄骨にあたり破損させてしまう。
保険金支払額:532,800円
事故内容・詳細:解体作業中、現場近くに停車していた自動車に破片が飛び、破損させてしまう。
保険金支払額:438,300円
事故内容・詳細:解体作業中、解体予定のない壁を壊してしまう。
保険金支払額:1,273,877円
事故内容・詳細:解体作業中に足場が倒れて水道管を破損させてしまう。
保険金支払額:893,400円
事故内容・詳細:作業中、ハンドル操作を誤った重機が隣家建物に接触。損害を与える。
保険金支払額:1,876,900円
事故内容・詳細:解体作業中、コンクリートにレンタルユンボのアームが当たり、大規模な破損となる。
保険金支払額:2,118,300円
事故内容・詳細:建設作業中、作業ミスから隣の家の雨どいを破損させてしまう。
保険金支払額:393,000円
事故内容・詳細:ブランケットアームがコンクリートの基礎に当たり、破損させてしまう。
事故内容・詳細:隣の駐車場に停めてあった車に落下、傷を負わせてしまう。
屋根材を剥がしていたところ、養生シートを誤って破ってしまい隣の駐車場に停めてあった車に落下、傷を負わせてしまう。
保険金支払額:228,000円
事故内容・詳細:近くに停めてあった高級車に当て、キズをつけてしまった。
解体現場において足場設置作業中、資材運搬の際に近くに停めてあった高級車に当て、キズをつけてしまった。
保険金支払額:1,680,000円
事故内容・詳細:ユンボでコンクリートを解体中、隣のブロック塀を引っ張ってしまい破損させてしまった。
保険金支払額:2,328,000円
事故内容・詳細:解体作業中、隣家のフェンスを壊してしまった。
保険金支払額:782,300円
事故内容・詳細:解体作業中に重機が隣家に当たり壁を壊してしまった。
保険金支払額:847,600円
事故内容・詳細:建設作業中、隣のアパートの壁破損させてしまった。
保険金支払額:198,900円
事故内容・詳細:エアコン設置工事で穴をあける箇所を間違えてしまった。
保険金支払額:38,000円
事故内容・詳細:足場組立時にパイプが落下させ、隣家の扉に当たり破損させてしまった。
保険金支払額:178,000円
事故内容・詳細:駐車場と道路のアスファルト破損。
保険金支払額:1,189,000円
事故内容・詳細:外壁工事の足場の設置作業中、単管をカーポートの屋根に落下させて破損させた。
保険金支払額:282,000円
事故内容・詳細:整地作業中、ガス管を破損させてしまう。
保険金支払額:828,000円
事故内容・詳細:作業中にガス管破損、隣の飲食店が休業せざるをえなくなる
保険金支払額:428,000円
事故内容・詳細:作業中、隣家の壁、パイプ、室外機等を破損させてしまう。
保険金支払額:348,000円
上記はあくまで物損害に絞った事例の紹介です。
それでも規模が大きいものとなると、損害額は数百万円にものぼります。
これは決して軽視することはできません。
請負業者賠償責任保険でしっかり備えておくことが非常に重要です。
Q&A:請負業者賠償責任保険に関しての質問と回答
ここで、請負業者賠償責任保険に関し、筆者が現場でよく聞かれる質問をいくつか紹介したいと思います。
質問①:請負契約を結んでいないと補償されないのでしょうか?
塗装業を営んでいる者です。一応法人ではありますが、従業員は3人だけと極めて小規模で、私自身も現場に出ています。
業務に付随して発生しうる賠償責任に備えて、請負業者賠償責任保険には加入しています。
そこで質問なのですが、この請負業者賠償責任保険は、きちんと書面で請負契約を結んでいない場合は、補償対象外になるのでしょうか?あまりよくないのですが、きちんと書面で請負契約を締結しないで作業するというケースもけっこうあるのが現状なのです。
このような場合は、そもそも保険の引き受け自体が難しく、補償されないのでしょうか?ぜひ教えてください。
回答|書面による契約書は必ずしも必要ではありません。
請負業者賠償責任保険は、基本的には「請負契約に基づいて業務を遂行する事業者」を対象とした保険です。
つまり、他者から仕事を請け負い、その遂行の過程で発生した事故によって第三者に損害を与えた場合に補償されるものです。
そのため、明確な請負契約が存在しないケースでは、補償の対象とすることが難しい場合があります。
ただし、ここでいう「請負契約」は必ずしも書面による契約書の取り交わしを意味するものではありません。
口頭での合意や、業務の実態が「請負」に該当すれば、契約書がなくても補償の対象となることがあります。
保険会社は、業務の内容や形態、作業の実態をもとに、請負業者賠償責任保険の補償対象となりうるかどうかを総合的に判断します。
たとえば、以下のようなケースでも対象になることがあります。
・個人で塗装業を営み、知人からの依頼で住宅の外壁塗装を行っている。
・清掃業者として飲食店から定期的に業務を請け負っているが、契約書は交わしていない。
・副業としてエアコンの取り付け工事を行っている
これらのように、継続的に業務を受注している実態があり、かつ第三者に対するリスクがある業務であれば、保険の引受が可能となることが多いです。
個人事業主や一人親方であっても、実態に即して加入できる柔軟性があります。
ただし注意点として、「単なる作業員(雇用契約による労働者)」や「施主本人によるDIY作業」などは請負業に該当しないため、請負業者賠償責任保険の対象外となります。
また、元請業者の包括契約に含まれている場合もあるため、現場によっては個別に加入が必要ない場合もあります。
最終的な判断は保険会社によって異なることがあるため、業務内容や契約形態について詳細に説明したうえで、保険代理店や保険会社に必ず相談するようにしましょう。
質問②:工事完成後の事故も補償されますか?
建設工事業を営んでいます。もうすぐ法人成りして3年という、まだまだ新米経営者です。
作業中の事故に備えて、請負業者賠償責任保険に入っています。
従業員が安全作業の意識のもとにがんばってくれているので、作業中の小さなケガはあるものの、大きな賠償事故は今のところありません。
ところで、請負業者賠償責任保険というのは、仕事完了後に発生した賠償責任も補償されるのでしょうか?
仕事の特性上、仕事完了後に不備が発覚するというケースも無いとは言えません。
保険のことよくわからず契約だけはしているという状況なので、この機会にしっかり理解しておきたいです。
回答|仕事完成後の賠償責任は請負業者賠償責任保険では補償されません!
請負業者賠償責任保険は、原則として「工事の遂行中」または「作業現場内での事故」によって、第三者に身体障害や財物損壊といった損害を与えた場合に、その賠償責任をカバーする保険です。
つまり、工事や作業が「未完了」である段階における事故を補償の対象としています。
そのため、工事が無事に「完成・引き渡し済み」の状態で発生した事故については、基本的に請負業者賠償責任保険の補償対象外となります。
たとえば以下のようなケースは、請負業者賠償責任保険では補償されません。
・取り付けた手すりが数日後に外れ、住人が転倒して負傷した。
・完成した配管工事の不備で、水漏れが発生し、下の階の家具を濡らしてしまった。
・設置した照明器具が落下して、店舗内の物品を破損させた。
こうした「工事の完成・引き渡し後」に発生した事故に対して備えるには、「生産物賠償責任保険(PL保険)」や「施設所有(管理)者賠償責任保険」など、別の保険が必要となります。
特に建設業や設備業、リフォーム業などでは、工事後のトラブルが思わぬ賠償リスクにつながることもあるため、請負業者賠償責任保険だけでは不十分であることが多いです。
そのため、実務上はリスク区分ごとに下記の保険の付保をするという対応が一般的です。
・請負業者賠償責任保険で「工事中の事故」をカバー
・生産物賠償責任保険(PL保険)で「完成・引渡し後の事故」をカバー
・必要に応じて施設所有者賠償保険で「事務所や保有施設の管理中の事故」をカバー
また、多くの保険会社では、これらをセットで加入できるパッケージ型商品を用意しています。
特に中小建設業者や個人事業主が対象となるプランでは、工事の進行段階と事故のタイミングに応じた適切な補償が受けられるよう、補償の「切れ目」を作らないことが極めて重要です。
したがって、「工事が完成した後にも補償を受けたい」場合には、請負業者賠償責任保険だけでなく、別途「完成後の事故」に対応できる保険への加入が必要であることを理解し、総合的なリスク対策を講じることが重要です。
保険代理店などに相談する際には、工事の種類や引き渡し後のリスクの有無をきちんと伝えることで、適切な補償の設計をしてくれます。
まずはリスク管理の専門家である保険会社や保険代理店に、事業の実態をしっかり説明し、リスクを洗い出しましょう。
質問③:元請けと下請け、どちらが加入すべきですか?
請負業者賠償責任保険について質問です。建設業は発注元がいて元請け業者がいて、さらにその先に下請け、孫請けと続く、いわゆる重層的な下請け構造となっています。
弊社はその仕事のほとんどを下請けとして請け負っているのですが、そのような場合でも請負業者賠償責任保険には加入しておくべきでしょうか?
私の感覚ではこの保険には元請業者のみが加入していれば良いのでは、と思っています。それとも下請け業者が加入すべき保険なのでしょうか?このあたりの仕組みをスッキリさせたいです。
回答|元請け・下請け双方がそれぞれの責任のもと、加入すべきです!
請負業者賠償責任保険は、工事や作業の遂行中に第三者に損害を与えた場合に、その賠償責任を補償する保険です。このようなリスクは、元請業者・下請業者のいずれにも存在します。
したがって、結論から言うと、元請業者・下請業者の双方がそれぞれの立場に応じて加入しておくことが理想的です。
元請業者が抱えるリスクと保険加入の必要性
元請業者は、契約上の責任者として現場全体の管理を担います。下請け業者の作業中に発生した事故であっても、管理責任や監督義務の不備を問われ、元請業者に損害賠償請求が及ぶ可能性があるのです。
具体例として、下記のケースを想像してみてください。
・下請業者が作業中に誤って隣家の外壁を破損してしまった。
・作業現場に通行人が侵入したところ、現場に散乱していた資材につまずいて転倒した。
・工事区域の立入禁止の措置が不十分だった。
このようなケースでは、下請業者の行為が直接の原因であっても、元請業者に「現場管理責任」があるとみなされ、損害賠償の請求先となる場合があります。
そのため、多くの元請業者は、自社の業務に起因する事故だけでなく、下請業者による事故にも対応できるような保険設計(包括契約や特約付きの補償)のもと、請負業者賠償責任保険を付保しています。
下請業者が抱えるリスクと保険加入の必要性
一方で、下請業者にも当然リスクがあります。実際に現場で手を動かすのは下請けであることが多く、作業中のミスや過失により事故を起こす可能性が高いのは、むしろ下請業者側であることが多いのです。
下請業者が独立した事業者である場合、自らの責任で保険に加入し、第三者に損害を与えた際にはその責任を負うべき立場にあります。また、多くの元請業者が「下請業者は賠償責任保険への加入を義務とする」と契約書に定めているため、保険に加入していないと仕事を受けられないというケースも実際には多く存在します。
双方が加入している場合の事故対応
実際に事故が起きた場合、元請けと下請けの双方が賠償責任を負う可能性があるため、どちらの保険が優先して適用されるかはケースによって異なります。一般的には、
下請業者の行為が直接の原因 → 下請け側の保険を優先
元請の管理責任が問われる → 元請け側の保険も活用される
という形になりますが、保険会社間での調整(求償)が行われることもあるため、保険に未加入の当事者がいるとトラブルの収束が難しくなるという傾向にあります。
実務上の対応とおすすめの保険設計
建設業や設備工事業、塗装業、解体業などでは、実際の事故発生リスクが高いため、保険未加入でいることは大きなリスクです。そのため、以下のような方針が実務上は一般的となります。
・元請業者は全体を包括する賠償責任保険に加入(+下請にも保険加入を義務づけ)
・下請業者は、自身の過失による損害に備えて個別に加入(保険証券を元請に提示)
保険料負担は業者の規模や保険金額によって変動しますが、万一の高額賠償に備えるうえで、必要不可欠な経費といえます。
総括
請負業者賠償責任保険は、元請・下請のどちらか一方だけが加入すれば良いというものではなく、双方がそれぞれの責任範囲に応じた保険加入をしておくべきです。事故の発生は誰にとっても想定外のことであり、特に工事現場では第三者への損害リスクが常に付きまとうため、加入していないことによる損失リスクは計り知れません。
そのため、実務では「保険加入=取引条件の前提」となっていることが多く、元請け・下請けともに、自社で対応可能な範囲と責任に見合った補償内容の保険に加入することが、リスクマネジメントにおける重要な第一歩となります。
質問④:請負業者賠償責任保険と労災保険はどう違うのですか?
建設関係の会社を経営しています。まだ独立して間もないですが、リスク管理が重要だということは体感として感じているので、保険にはしっかり加入しているつもりです。
ただ、それぞれの補償内容については恥ずかしながらあまりよくわかっておりません。
保険屋さんに言われるがまま入っているというのが現状です。このような状況を踏まえての質問なのですが、労災保険と請負業者賠償責任保険の違いはどういうものなのでしょうか?
どちらも建設業においては必須の保険だとは思うのですが、内容がわからないのです。
最低限、この違いだけは理解しておきたいです。
回答|補償の目的や補償対象など、根本的な相違点がいくつかあります。
「労災保険」と「請負業者賠償責任保険」は、どちらも業務中の事故に関する補償制度ですが、補償の目的・対象者・保険金の支払いの性質・法的位置づけなどが根本的に異なります。
混同されやすい保険ですが、それぞれの役割を理解して正しく使い分けることが大切です。以下、それぞれについて解説していきます。
労災保険とは?
労災保険(正式には「労働者災害補償保険」)は、労働者が業務中または通勤中に負傷、疾病、障害または死亡した場合に、国が補償する制度です。雇用主が保険料を納付し、原則として全労働者を対象とすることが義務付けられています(パートやアルバイトも補償対象に含まれ、雇用形態にかかわらず適用されます)。
たとえば、現場作業中に作業員が転落してけがをした場合、その作業員に対しては労災保険が適用され、治療費や休業補償、障害補償、遺族補償などが支払われます。
【労災保険の特徴】
・対象者:労働者(被雇用者)
・保険料負担者:事業主(国が運営)
・補償対象:労働者自身のけが・病気・死亡
・補償の性質:無過失補償制度(過失の有無を問わず補償)
・加入義務:事業主に法的義務あり
請負業者賠償責任保険とは?
一方、請負業者賠償責任保険は、業務の遂行中に第三者(通行人・顧客・周囲の住民など)に損害を与えてしまった場合に、事業者が負う賠償責任を補償する保険です。これは任意保険であり、主に損害保険会社が補償を提供しています。
たとえば、作業中に工具を落として通行人がけがをした、隣家のガラスを割ってしまった、設置工事中にお客様の家財を破損した、といったケースで、損害賠償請求を受けた場合に保険金が支払われます。
【請負業者賠償責任保険の特徴】
・対象者:第三者(通行人、顧客、近隣住民など)
・保険料負担者:加入する事業者
・補償対象:第三者に与えた損害への賠償責任
・補償の性質:過失責任に基づく賠償補償
・加入義務:任意加入(業種によっては実質的に必須)
二つの保険の違いを表にまとめると・・・
比較項目 | 労災保険 | 請負業者賠償責任保険 |
---|---|---|
補償対象者 | 従業員(労働者) | 第三者(通行人・顧客など) |
保険の目的 | 労働者の保護 | 第三者への賠償補償 |
主な補償内容 | けが・病気・死亡の治療・休業補償など | 第三者のけがや財物損壊への賠償金 |
加入の義務 | 法律で義務付け(原則全事業者) | 任意(ただし多くの業種で事実上必須) |
過失の有無 | 過失がなくても補償 | 過失がある場合に補償される |
運営主体 | 国(労働局) | 損害保険会社 |
比較項目 |
労災保険 |
請負業者賠償責任保険 |
補償対象者 |
従業員(労働者) |
第三者(通行人・顧客など) |
保険の目的 |
労働者の保護 |
第三者への賠償補償 |
主な補償内容 |
けが・病気・死亡の治療・休業補償など |
第三者のけがや財物損壊への賠償金 |
加入の義務 |
法律で義務付け(原則全事業者) |
任意(ただし多くの業種で事実上必須) |
過失の有無 |
過失がなくても補償 |
過失がある場合に補償される |
運営主体 |
国(労働局) |
損害保険会社 |
両方の保険が必要な理由
現場では、従業員のけが(=労災保険対象)と、第三者への損害(=請負業者賠償責任保険の対象)が同時に発生することも珍しくありません。
たとえば、
・作業員が足場から落ちてけがをした → 労災保険で補償
・その足場が倒れて隣家の外壁を壊した → 請負業者賠償責任保険で補償
このように、両者は「補完関係」にある保険であり、片方だけでは現場リスクに十分に対応することはできません。特に、建設業や電気・設備工事業、清掃業など、人や物に直接関わる業種では、両方にしっかり加入しておくことが基本となっています。
総括
労災保険と請負業者賠償責任保険は、対象となる事故や補償範囲が大きく異なります。
・労災保険は「自社の労働者を守る保険」
・請負業者賠償責任保険は「第三者に損害を与えたときの補償」
という明確な役割の違いがあります。どちらか一方に加入していればよいというものではなく、リスク管理の観点からは両方を併用することが不可欠です。
現場を持つ事業者にとって、これらの保険は「万一の際に事業を守る命綱」ともいえる存在です。
事故が起きてから後悔することのないよう、適切な保険選びをしておくことが重要です。
まとめ
今回の記事では、建設工事業者が考えるべき第三者に対するリスクで、物損害に絞って考察し、備えるべき保険として請負業者賠償責任保険の補償内容を解説しました。
人のケガの伴わない物損害においても、損害額は大きくなる危険性をはらんでいます。
今回の記事で紹介した事例は、すべて実際に起こった事故です。
事故を起こさないよう、普段から注意を払って仕事に取り組むのは当然ですが、それでも人為的ミスから事故は起こります。
そのようなときのために、しっかり請負業者賠償責任保険で備えておきましょう。