公的年金の死亡・傷害・老齢で受け取れる!受け取れない?年金を解りやすく解説します。
「老後2,000万円問題」という言葉を覚えている方はいるでしょうか。
2019年に金融庁が発表したもので、ザックリ言うと、老後の30年間で生活費が約2,000万円不足するといった内容です。
これを受けて、多くの人が老後の生活に不安を覚えたことでしょう。
この内容はあくまでひとつの仮定であり、すべての人に当てはまるものではないものです。
とはいえ、老後の生活において重要な役割を果たす公的年金制度については、最低限の理解をしておく必要はあるのではないでしょうか。
実は公的年金制度は、老後の生活保障の他にも様々な保障があるのです。
今回の記事では、公的年金制度の基本的な仕組みや保障内容について解説していきたいと思います。
日本の社会保障制度について
まず日本の社会保障制度の概要について説明します。
社会保障制度は、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットです。
「社会保険」、「社会福祉」、「公的扶助」、「保健医療・公衆衛生」の4つの柱で構成され、子どもからお年寄りまで、すべての人々の生活を生涯にわたって支える役割を担っているのです。
社会保険
国民が病気、けが、出産などといった、人生において遭遇する様々なリスクに対し、一定の給付を行うことで、国民の生活の安定を図ることを目的とした制度です。
主な財源は国民が負担する保険料ですが、国庫からの負担もあります。
社会福祉
母子家庭や障害者、高齢者など、生活する上で様々なハンディキャップを負っている人に対して、そのハンディキャップを克服すべく公的なサポートを行う制度です。
公的扶助
生活保護制度に代表されるように、主に貧困や低所得者等、生活に困窮する国民に対して様々な公的サポートを行い、最低限度の生活を送れるようにすることで、自立を促すことを目的としています。
保健医療・公衆衛生
伝染病予防や生活習慣病対策等、国民が健康に生活できるよう、様々な事項について予防したり、健康の増進を図ったりすることを目的としています。
このように、日本の社会保障制度は非常に多岐にわたって保障しています。
公的年金制度は、社会保険の中にある「年金」、「医療」、「介護」とあり、その「年金」部分に含まれるもので、社会保障制度全体から見たらほんの一部分に過ぎないことになります。
公的年金制度
日本における公的年金制度では、自営業者や無職の人も含め、原則として20歳以上60歳未満の人のすべてが年金制度の加入対象となっています。
このことを国民皆年金制度といい、よく2階建て構造との例えを用いられ、これによって、社会全体で国民の老後の生活保障に寄与していることになるのです。
1階部分、2階部分について、それぞれ解説していきます。
1階部分;国民年金
冒頭にもお話しましたが、公的年金制度が担っているのは老後の生活保障だけではないのです。
具体的には老齢・障害・遺族の3つの保障をカバーしているのです。国民年金における3つの保障を中心に解説します。
加入対象者
自営業者や学生、無職の人等、厚生年金保険(後述します)の被保険者でない日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人はすべて加入することになります。
保険料
国民年金の保険料は原則として定額です。毎年見直しが実施されますが、令和6年度の1か月あたりの保険料は16,980円です。
2019年以降は17,000円と固定されているものですが、その年の物価変動率と実質賃金変動率を反映した「保険料改定率」を乗じることで、毎年改定されているのです。
なお、国民年金の保険料は免除や減免といった制度があります。
代表的なものは学生納付特例制度で、学生本人の所得金額等、所定の要件を満たすことで、国民年金の保険料の納付の猶予を受けられるというものです。
老齢の保障:老齢基礎年金
受給資格期間(保険料納付済期間や保険料免除期間、合算対象期間等)が10年以上あると、65歳から受給できる年金です。
受給できる金額は下記の計算式によって算出されます。
(※日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額 より抜粋)
なお、受給開始時期は60歳~65歳までの間に繰り上げて受け取ることもできますが、その場合の受給額は、繰り上げた月数×0.4%の計算式で減額された金額を一生涯受給することになります。
逆に、66歳~75歳までの間に繰り下げて受給することもでき、その場合の受給額は、繰り下げた月数×0.7%の計算式で増額された金額を受給することができます。
障害の保障:障害基礎年金
病気やケガなどにより、一定の障害状態に該当すると認められると、国民年金より障害基礎年金を受給することができます。具体的には以下の要件をすべて満たす必要があります。
1.障害の原因となった病気やけがの初診日が次のいずれかの間にあること。
・国民年金加入期間
・20歳前または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間
2.障害等級表に定める1級または2級に該当していること
3.初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、保険料未納の期間が3分の1未満であること
(※日本年金機構 障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額 より要点を抜粋)
受給できる年金額は障害等級に応じて下記のように異なります。
1級:満額の老齢基礎年金額(※)×1.25
2級:満額の老齢基礎年金額(※)
※令和6年4月以降の金額は816,000円です。
なお、障害基礎年金受給者に生計を維持されている18歳の年度末の子がいるときは一定の加算額があります。具体的には下記の金額です。
2人まで:1人につき234,800円
3人目以降:1人につき78,300円
遺族の保障:遺族基礎年金
国民年金の加入者が亡くなった場合、一定の遺族は国民年金より遺族基礎年金が受給できます。
受給するには亡くなった人が一定の要件を満たす必要があります。
具体的には下記のいずれかの要件に該当することが必要です。
・国民年金の被保険者である間に死亡したとき
・国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
・老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
・老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
(※日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額) より抜粋)
受給できる金額は満額の老齢基礎年金額で、障害基礎年金と同様、子の加算額があります(子の要件は障害基礎年金同様です)。
なお遺族基礎年金を受給できるのは、子のある配偶者もしくは子となります。
子のいない配偶者は受給できない点に注意が必要です。
2階部分:厚生年金保険
公的年金の2階部分は厚生年金保険が担っています。
保障するリスクは国民年金と同様、老齢・障害・遺族です。
厚生年金保険についてもこの3つのリスクを中心に解説していきます。
加入対象者
厚生年金保険の加入対象者となるのは、いわゆる会社員です。具体的には下記の要件となります。
・常時使用されていること
・70歳未満であること(※)
(※)70歳以上であっても、国民年金の受給資格期間が足りない等、所定の要件を満たすことで受給資格期間を満たすまでは加入することができます。
なお、パート・アルバイトであっても以下の要件をすべて満たすことで加入対象となります。
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
・所定内賃金が月額88,000円以上であること
・2か月を超える雇用の見込みがあること
・学生でないこと
(※厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト より抜粋)
保険料
厚生年金保険の保険料は標準報酬月額(※)に保険料率(18.3%)を乗じて算出します。
(※)標準報酬月額・・・対象となる従業員が受け取る毎月の給与(残業代や通勤手当も含む)を一定の金額の範囲ごとに区分することで定めた金額。現在1~32等級までに分類されている。
なお、保険料は労使折半となっていて、従業員が負担するのは半額の9.15%部分のみとなります。
老齢の保障:老齢厚生年金
老齢基礎年金の受給資格を満たした人で、厚生年金保険の被保険者期間が1か月でもあれば、老齢厚生年金を受給することができます。
受給できる金額は下記の計算式によって算出されます。
老齢厚生年金の年金額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金
それぞれの計算式は下記を参照してください。
※受給対象者の生年月日によって定額部分の年金を受給できますが、本記事では解説を割愛します。
障害の保障:障害厚生年金
会社員の時に一定の障害状態に該当すると、障害厚生年金を受給することができます。
受給のための具体的な要件は、下記3つの項目すべて満たすことが必要となります。
(※日本年金機構 障害厚生年金の受給要件 より要点を抜粋)
受給できる年金額は、障害等級に応じて下記のようになります。
1級:報酬比例部分の年金額 × 1.25 + 配偶者の加給年金額
2級:報酬比例部分の年金額 + 配偶者の加給年金額
3級:報酬比例部分の年金額
なお報酬比例部分の計算において、加入月数が300月未満の場合、300月とみなすとする最低保証の規定もあります。
遺族の保障:遺族厚生年金
厚生年金保険においても、一定の要件を満たすことで得られる遺族保障があります。亡くなった人の要件は下記のいずれかに該当することになります。
- 厚生年金保険の被保険者である間に亡くなること
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に亡くなること
- 1,2級の障害厚生年金の受給者が亡くなったとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった者が亡くなったとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした者が亡くなったとき
受給できる人にも要件があり、下記の順位に応じて、最も優先順位が高い人が受け取ることができるという仕組みです。
- 子のある配偶者
- 子
- 子のない配偶者
- 父母
- 孫
- 祖父母
※子は18歳の年度末まで、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある者をいう。
遺族厚生年金の年金額は、亡くなった人の老齢厚生年金額の報酬比例部分の4分の3となります。なお一定の要件を満たす妻には、中高齢寡婦加算という、40歳から65歳までの間、年額612,000円が加算される仕組みがあります。
【中高齢寡婦加算の要件 下記いずれかを満たす必要がある】
・夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいないこと。
・遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳到達年度の末日に達した等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき。
3階部分:プラスアルファの備え
ここまでで公的年金の保障内容について解説してきました。しかし公的年金だけで十分な保障が得られているとは言えません。障害状態になった場合の保障としては医療保険や介護保険、遺族保障としては生命保険等がプラスアルファの備えとして必要だと考えられます。ここでは老後におけるプラスアルファの備えにフォーカスして、いくつか紹介したいと思います。
付加年金
国民年金の加入者は毎月の保険料をプラス400円(付加保険料という)余分に納めることで、受給できる老齢基礎年金が上乗せされます。具体的には下記の金額です。
200円×付加保険料納付月数
つまり、2年受給したら元を取れる計算となり、コスパの良い仕組みであるといえます。
積み立てNISA
年間の投資上限額(40万円)までは、その運用によって得られた利益にかかる税金がゼロになるというものです。
投資対象も長期・積立・分散投資に適したものとして国が厳選しているので安心感があります。
投資初心者にもおすすめです。
iDeCo(確定拠出年金)
自分自身で掛金を拠出し、自己責任で運用、資産形成する制度です。掛金は全額所得控除の対象となるので節税効果があります。
ただし、会社員や自営業者といった加入資格によって拠出できる金額に上限があります。
年金保険(私的年金)
生命保険会社が販売する年金保険は、老後のプラスアルファの備えとして最適です。
払込期間中に万が一亡くなってしまっても、払い込んだ保険料の全額相当額が戻ってくるので、掛け捨てになる心配はありません。
さらに生命保険料控除の対象にもなるので、節税効果が得られます。
まとめ
今回の記事では日本における公的年金制度について、その仕組みや保障内容について解説しました。
一般的には老齢のみの保障と思われがちな公的年金制度ですが、老齢以外にも障害状態や遺族に対する保障もあります。
また、国や会社による一定の補助もあり、保険料の面でも手厚い保障があります。
しかし保障は公的年金だけでは十分とはいえません。
不足分を補うためには、最後の項で解説したような、プラスアルファの備えが必要です。
プラスアルファの備えについても税金面での優遇措置がありますので、ぜひ積極的に取り入れるようにしましょう。
- インスタ用●
①日本の公的年金制度は1階部分:国民年金、2階部分:厚生年金保険という2階建て構造になっています。
②国民年金の加入者は自営業者、無業者、学生など
③厚生年金保険の加入者は会社員
④国民年金も厚生年金保険も、老齢、障害、遺族の保障を備えています。
⑤ただ、これだけでは決して十分な保障とはいえません。
⑥3階部分の備えとして、付加年金、積み立てNISA、iDeCo、年金保険があります。税制面の優遇措置もあるので積極的に活用しましょう。