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2025.03.02

公的医療保険・健康保険の給付や加入要件は?従業員に負担させると違法?を詳しく質問に回答します。

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著者情報 森 逸行 FP歴15年 経験した事を伝え解決に導く『金融パーソナルトレーナー』

公的医療保険(健康保険)の給付や加入要件は?従業員に負担させると違法?を詳しく質問に回答します。

  病院で治療を受け、治療費用を支払う際、多くの人が窓口担当者の言われるがままに保険証を提示しているというのが実状だと思います。

しかしこのことは、実は公的医療保険制度の大きな恩恵を受けているのです。

具体的には、「療養の給付」というもので、病院の窓口で支払う費用が実際にかかる医療費の3割に抑えられるという、公的医療保険制度の給付を受けていることになるのです。

このような日本の公的医療保険制度は、実は世界的に見ても非常に優れた制度なのです。

事実、国民皆保険、フリーアクセスの点で世界的に高い評価を受けており、2000年にはWHO(世界保健機関)から世界第一位という評価を獲得しています。

今回の記事では、このような世界的に評価の高い日本の公的医療保険制度の内容、とりわけ被用者保険である健康保険制度について解説します。

様々な給付内容や、加入の条件についても触れるので、こんな給付があったのだな、という気づきが得られると思います。

ぜひ健康保険制度の有効活用のために参考にしてください。 

公的医療保険健康保険の給付や加入要件は?従業員に負担させると違法?を詳しく質問に回答します。2

目次

日本の公的医療保険制度について

日本における社会保険は、国民の病気やケガ、失業、出産、老齢、死亡といったリスクに対して必要な給付を行う公的な保険の総称です。

医療保険制度はそんな社会保険の一部に分類されています。

日本の公的医療保険制度は下記3点の大きな特徴を持っています。 

・国民皆保険
・フリーアクセス
・現物給付(医療サービス給付) 

上記の特徴について、それぞれ解説していきます。 

国民皆保険

日本の公的医療保険制度の最も大きな特徴いえるのが、この国民皆保険です。

これは、すべての国民は職業や年齢に応じて分類された医療保険制度に加入して(後述します)、全員が保険料を納めることで、医療保険加入者全員を相互に支え合うことを実現するものです。

これにより、病院で治療費かかった費用の7~9割を保険者から給付を受けることを実現しているのです(自己負担が1~3割に抑えることができます)。

なお公的医療保険制度では、職業や年齢に応じて下記のように加入する医療保険制度が分類されます。

保険の種類対象者
協会けんぽ中小零細企業の会社員
組合管掌健康保険大企業の会社員
共済組合公務員、教職員
国民健康保険自営業者、学生、無業者
船員保険船員
後期高齢者医療制度75歳以上、および65~75歳で一定の障害のある人

 協会けんぽ、組合管掌健康保険を一括りとして被用者保険といい、健康保険制度に加入します。

本記事ではこの健康保険制度にスポットを当てて解説していきます。 

フリーアクセス

フリーアクセスとは、医療サービスを受ける医療機関を、自分で好きなように選択できることを言います。

日本で日々生活していると、当たり前に思えることかもしれませんが、海外に目を向けると、必ずしもそうではないのです。

たとえばイギリスでは、医療機関の選択の自由が制限される場合があります。またフランスでも、かかりつけ医の紹介なしには他の医療機関の受診をすることはできません。

なお、ドイツやアメリカでは日本同様フリーアクセスの仕組みとなっていますが、アメリカでは加入者の民間の医療保険によっては、かかりつけ医の訪問を義務付けるとこともあります。 

現物給付(医療サービス給付)

現物給付とは、医療機関において自己負担額を支払うことで受けられる、診察・投薬・検査・手術といった医療サービスそのものを言います。

現物給付との対比で、病気やケガの療養のために働くことができず、収入を得られない場合の収入保障である傷病手当金や、出産の際に出産費用の補助として受給できる出産育児一時金といった現金給付があります。 

健康保険の給付内容

ここでは健康保険の給付内容について解説します。なお健康保険の給付は被保険者に関するものだけではありません。

被保険者によって生計を維持している一定の親族に該当する被扶養者に対しても給付の仕組みがあるのです。

被保険者に関する給付と被扶養者に関する給付とそれぞれについて解説していきます。 

被保険者に関する給付

療養の給付

保険医療機関での診察、薬剤または治療材料の支給等、業務外の事由によって病気やケガをしたときに受けることができる治療。 

入院時食事療養費

被保険者が入院したときに受けることができる食事の費用負担に対する給付。1食あたり、下記の計算式によって算出した額が入院時食事療養費として給付を受けることができます。 

厚生労働大臣の算出基準による食事療養費―平均的な家計の食事と比較した標準負担額

 入院時生活療養費

65歳以上の被保険者が入院した場合に、食事療養・生活療養に要した費用について受けることができる給付。

具体的には下記の計算式によって算出した額が入院時生活療養費として給付を受けることができます。 

厚生労働大臣の算出基準による生活療養費―平均的な家計の食費、居住費等と比較した標準負担額

 保険外併用療養費

健康保険制度において、保険が適用される診療と保険が適用されない診療を同時に受診した場合、かかった医療費の全額(保険が適用される診療も含めて)が自己負担となる仕組みとなっています。

ただし、厚生労働大臣の定める「評価療養」と「選定療養」については保険診療との併用が認められ、その費用は一部負担金を支払うことで、残りは保険外併用療養費として給付を受けることができます。

 療養費

保険医療機関で診療を受診する場合、現物給付である「療養の給付」が原則となります。

しかしやむを得ない事情により自費で受診したときなど特別な場合に療養費が現金給付として支給されます。

 訪問看護療養費

居宅で療養している人が、かかりつけ医の指示によって訪問看護を受けた場合、現物給付として訪問看護療養費の支給を受けることができます。

 移送費

病気やケガで移動が困難な患者が、医師の指示によって移送された場合に移送費が支給されます。

 傷病手当金

被保険者が病気やケガの療養のため会社に行くことができず、事業主が十分な報酬が得られない場合に現金給付として傷病手当金が支給されます。

 埋葬料、埋葬費

被保険者が亡くなった場合に、埋葬を行う人に埋葬料または埋葬費が現金給付として支給されます。

 出産育児一時金

被保険者が出産した(※)場合に、一時金として支給されます。 

※妊娠85日(4か月)以後の生産、死産、人工妊娠中絶を言います。

 出産手当金

被保険者が出産のために会社に行くことができず、事業主が十分な報酬が得られない場合に現金給付として出産手当金が支給されます。 

被扶養者に関する給付

家族療養費

被扶養者が病気やケガをして保険医療機関での診察、薬剤または治療材料の支給等を受けたときは、現物給付として家族療養費が支給されます。

被保険者の療養の給付に該当するもので、その給付の範囲・受給方法・受給期間などはすべて療養の給付と同様となります。

 家族埋葬料

被扶養者が亡くなった場合に、被保険者に家族埋葬料(5万円)が現金給付として支給されます。

 家族出産育児一時金

被扶養者が出産した場合に、一時金として支給されます。被保険者の出産育児一時金と同様の内容になります。 

健康保険の給付内容については下記の記事でも解説しています。ぜひ参考にしてください。 

【参考記事:病気やケガで受け取れる給付は?社会保障制度を解りやすく解説】

健康保険の加入要件

健康保険に加入するには一定の要件を満たす必要があります。逆に言うと、一定の要件を満たすと加入しなければなりません。

事業所側の加入要件、従業員側の加入要件それぞれを解説します。 

事業所の要件

事業所の要件には、一定の要件を満たすと加入が義務付けられる強制適用事業所と、強制適用事業所の要件を満たさないものの、一定の要件を満たすことで任意加入が可能となる任意適用事業所とあります。

 強制適用事業所

法人の事業所、および農林漁業・サービス業を除く個人で、従業員が常時5人以上いる事業所をいいます。

 任意適用事業所

上記①の強制適用事業所の要件に該当しなくても、従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、厚生労働大臣の認可を受けることで適用事業所となることができます。 

従業員の要件

事業所の要件と同様、従業員についても一定の要件を満たすと、健康保険に加入しなければなりません。

具体的な要件は下記となります。 

・適用事業所に常時雇用されている75歳未満の従業員。
・パート等の短時間労働者で、1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の従業員。

 なお上記のいわゆる4分の3基準を満たさない場合であっても、適用対象となる従業員の範囲は拡大されていて、現在では、特定適用事業所(※)で働く従業員が、下記3つの要件を満たすと被保険者となります。 

1.週の所定労働時間が20時間以上であること
2.所定内賃金が月額88,000円以上であること
3.学生でないこと

 ※特定適用事業所・・・1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者の総数が51人以上となることが見込まれる企業等をいいます。

社会保険の適用拡大の項で詳しく解説します。 

社会保険に加入するには?

一定の要件を満たすことで、強制的に加入することになる健康保険ですが、加入するには手続きが必要になります。

健康保険の加入義務があるのに手続きを怠っていると、過去2年間の未納分の保険料が遡及して徴収されたり、ハローワークへの求人掲載が制限されたりと、企業にとっては様々なデメリットが発生します。

さらに悪質の場合、最大で6か月以下の懲役または50万円以下の罰金までも科せられる可能性もあります。

要件を満たした場合は必ず手続きをするようにしましょう。 

事業所が加入するときの手続き

健康保険の加入義務が発生してから5日以内に、下記の書類を事業所所在地管轄の年金事務所に提出することで手続きを行います。 

・健康保険・厚生年金保険 新規適用届
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
・健康保険・厚生年金保険 被扶養者(異動)届 ※必要に応じて
・法人登記簿謄本(商業登記簿謄本) 

原則として5日以内の手続きとなっておりますが、実務上は5日を過ぎても届出は受理してくれます。

そうは言っても、必要書類は可能な限り早めに提出するようにしましょう。 

従業員を加入させるときの手続き

従業員が入社してから5日以内に、下記の書類を事業所所在地管轄の年金事務所に提出することで手続きを行います。 

・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
・健康保険・厚生年金保険 被扶養者(異動)届 ※必要に応じて 

なお上記についても事実発生から5日以内の届出期限となっておりますが、5日を過ぎても届出は受理されます。 

社会保険の適用拡大について

健康保険・厚生年金保険(以下、社会保険と表記します)はこれまで幾度にわたって、適用対象とする事業所の範囲を拡大してきました。

適用対象となる従業員は主にパート・アルバイト従業員で、以下の要件を満たす人です。 

・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・所定内賃金が月額88,000円以上
・2ケ月を超える雇用の見込みがある・学生でない 

ここで、これまでの社会保険の適用拡大の動きを振り返りたいと思います。 

・平成2810月~被保険者数501人以上の企業等で上記要件を満たすパート・アルバイト従業員に適用拡大。

・令和410月~被保険者数101人以上の企業等で上記要件を満たすパート・アルバイト従業員に適用拡大。

・令和610月~被保険者数101人以上の企業等で上記要件を満たすパート・アルバイト従業員に適用拡大。 

上記のような段階を経て現在の適用範囲に至っています。なお、今後も社会保険の適用範囲は拡大傾向にあります。

特に入退社の手続きを受け持つ企業の総務担当者は注視しておきましょう。 

健康保険関連のよく受ける質問に関しての回答

最後に健康保険関連でよく受ける質問に関し、回答したいと思います。

多くの人が疑問に持つ内容をピックアップしておりますので、ぜひ参考にしてください。 

質問①: 社会保険の適用拡大で、準備すべきことは?

健康保険・厚生年金保険といった社会保険がどんどん適用範囲を拡大していることは知っております。

私は会社で総務担当をしているので、自分の業務に何らかの影響が出るのではと思っておりますが、具体的にどのような影響が出るのか理解したいです。

また会社として今のうちにやっておくべき準備などもあれば教えてください。 

回答|注意点を大きく5つに分けて説明します。

社会保険の適用拡大は、対象となる従業員にとっては非常に恩恵のある話です。

社会保険の給付対象となることで、老後の生活の安定、医療費の負担軽減が期待でき、そのための掛金も半額を企業が負担してくれるものです。

一方で手続き実務を担当する人事担当者は、手続きで慌てないためにも事前にある程度準備しておくことが必要になります。

人事担当者が注意すべき点を5つのポイントに分けて解説します。

 ◆ポイント①:対象となる従業員を特定

まず適用拡大の対象となる従業員を特定することが最初のステップになります。

直近の202410月に改定では、下記の要件を満たすパート・アルバイト従業員が対象となりました。 

・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・所定内賃金が月額88,000円以上
・2ケ月を超える雇用の見込みがある
・学生でない 

上記の要件と、企業で働く従業員の働き方とを照らし合わせて、まず人数の概算を把握しましょう。

その人数に合わせて、個別の説明で良いのか、説明会を開くべきかをある程度想定しておきましょう。

 ◆ポイント②:適用拡大にともなうコストの試算

社会保険料はその半額を企業が負担することは前述の通りです。適用対象となる従業員の範囲が拡大するということは、企業にとって費用負担が増加することを意味します。

対象者人数によっては、予算計画の抜本的な見直しが必要となる可能性もあります。

対象者ごとに年齢や働き方、賃金額も異なれば社会保険料も異なります。

増額する費用額を正に試算しておきましょう。

 ◆ポイント③:労務管理方法を見直す

社会保険の適用拡大の対象となる人にとっては、社会保険に加入することは労働条件が変更することを意味します。

適切な労務管理のためには、雇用契約書の再締結が必要となる場合もあります。

またパート・アルバイトの中には、配偶者の収入の兼ね合いで、配偶者の扶養範囲内で働いている方もいます。

そういった方々にとっては働き方そのものを見直す必要が出てきます。

 ◆ポイント④:対象従業員への説明

対象従業員にとっては少なくない影響が出る話なので、当然しっかり説明し、理解してもらう必要があります。

従業員側にとっても、このことは社会保険の恩恵を受けるのと同時に、これまで発生していなかった費用が新たに発生する話です。

お金に関する話はデリケートかつ重要な話なので、しっかり準備して進めましょう。

人数が多ければ説明会等を開催するのも効率の面で重要です。

顧問契約を結んでいる社会保険労務士がいる場合は、説明してもらうのもひとつの手です。

社会保険の専門家の話であれば説得力をもって聞いてもらえることが期待できます。

 ◆ポイント⑤:手続きの実施

具体的な手続きは対象となる従業員に関し、下記の書類を事業所管轄の年金事務所へ提出することで実施します。 

・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 

手続きについても顧問社労士がいれば、連携して進めましょう。 

このように、ある程度の段階を踏んだ事前準備が必要です。

特に対象従業員への説明に関しては、誤った説明をすることで誤解を生まないように注意深く進める必要があります。

年金事務所や専門家に確認したりと、事前にしっかり制度の理解を深めておきましょう。 

質問②: 従業員が正社員からパートに変わることで、健康保険の要件満たさなくなりどんな手続きが必要ですか?

小さな町工場を経営している者です。社員数は工場での作業員が5人、女性事務員が1人という小規模の会社です。

その1人の事務員には小学校入学前の子どもがいるのですが、先日、習い事の送迎や家事が忙しいから正社員からパートにして勤務時間と日数を減らしてほしいと言われました。

従業員の生活環境を尊重したいと思っているので、変更には同意しました。ただ、よく考えると、変更することで彼女は健康保険の資格を満たさなくなるのです。

このような場合、どういう手続きが必要になるのでしょうか?教えてください。 

回答|加入喪失の手続きが必要です。喪失後の手続きについても情報提供してあげましょう。

勤務日数や勤務時間といった労働条件の変更によって、社会保険の加入要件を満たさなくなると、資格喪失の手続きを行う必要があります。

具体的には下記の書類を、労働条件等の変更によって社会保険の加入要件を満たさなくなった日から5日以内に、事業所管轄の年金事務所に提出することで手続きを行います。 

・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
・健康保険被保険者証(被保険者本人分、被扶養者分ともに)
・高齢受給者証、健康保険特定疾病療養受給者証、限度額適用認定証(交付されている場合のみ)

上記の手続きをすることで、従業員は会社の健康保険からは抜けることになりますが、別の公的医療保険に加入しなければなりません。

日本は国民皆保険といい、職業や年齢に応じて該当する公的医療保険への加入が義務付けられています。

質問者様の話から察する限り、事務員の方は下記の2通りのいずれかが想定されます。 

・配偶者、その他家族の扶養となり、健康保険に加入
・国民健康保険に加入

それぞれの要件について解説します。

 ◆配偶者、その他家族の扶養となり、健康保険に加入

被扶養者となるには、一定範囲の被保険者の親族(※)に該当し、主として被保険者に生計を維持されている必要があります。 ※被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫、兄弟姉妹 

さらに、生計を維持しているというためには、一定の収入要件も関わってきます。具体的には下記の基準によって判断されます。 

【被保険者と同一世帯に属している場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満であり、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満であること。

【被保険者と同一世帯に属していない場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満であり、かつ被保険者からの援助額より少ないこと。

上記いずれかの要件を満たした場合、被保険者の勤め先にて手続きを行うことで被扶養者となることができます。

 ◆国民健康保険に加入

国民健康保険の加入要件は、勤務先の健康保険、後期高齢者医療制度、生活保護受給者に該当しない人は全て対象者となります。

具体的には下記のような方が国民健康保険の加入対象となります。 

・自営業者
・無業者
・学生
・パート、アルバイトで、職場の健康保険の加入資格を満たさない方 

国民健康保険へ加入するには、事実発生から14日以内に下記の書類をお住まいの市区町村に提出することによって手続きを行います。 

・健康保険の資格喪失証明書(健康保険に加入していた職場に発行してもらいます)
・本人確認書類

なお必要書類は、自治体によって異なる場合があります。事前に確認するようにしましょう。 

今回のご質問のあった事務員さんが、ご家族の健康保険の被扶養者になるのか、国民健康保険に加入するのかはわかりませんが、想定されるパターンを説明してあげるのが親切です。

判断が難しい場合は年金事務所か社会保険労務士に確認して、事務員さんに手続きの流れを説明してあげましょう。 

質問③: 健康保険には必ず加入しなきゃダメ?半額負担で法定福利費が馬鹿にならず、経営を圧迫しています。

業種は伏せますが、とある中小規模の会社を経営しています。

コロナ禍に端を発して経営がどんどん悪化してしまいました。可能な限り経費を削減しているのですが効果がありません。

あまり考えたくなかったのですが、人件費関連の経費を見直さざるを得ないと考えています。

ただ、給与を削ることで従業員が離れてしまうのは本末転倒なので、法定福利費をどうにか削減できないかと思っているところです。

というのも、社会保険の半額を会社で負担しなければならないというのは正直厳しいです。

健康保険には必ず加入しなければならないのでしょうか?

または会社の事情を説明して、会社負担分を従業員に負担してもらうことはできるのでしょうか? 

回答|会社が負担すべき社会保険料を従業員に負担させることは違法です。

健康保険を含む社会保険は、一定の要件を満たしたら加入をしなければなりません。

これは法律で定められた義務であり、違反すると以下のように罰則の定めもあります。 

【法令リード 健康保険法第208条より抜粋】
事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 

48条(第168条第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。

 また、社会保険料を労使折半とすることについても、法律で定められている規定であり、会社負担分を従業員に負担させた場合も違法となります。 

【法令リード 健康保険法第161条より抜粋】
被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。 

【法令リード 厚生年金保険法第82条より抜粋】
被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。

法定福利費は経営において大きな負担となるのは非常によくわかります。

しかし社会保険は従業員が不測の事態に遭った場合でも、最低限の補償を用意することで、安心して働くことができるようになる、セーフティネットとしての意味を持ちます。

法律でも義務付けられているので、企業側で負担する分はしっかり負担すべきです。

厳しいことを言うようですが、法を違反してまで存続しようとする会社に社会的意義はありません。

いま一度、経営そのものについて見直しましょう。

 

なお余談ですが、今回のご質問のケースとは逆に、社会保険料の労働者側が負担すべき分を会社が負担した場合はどうでしょうか。

この場合、法的な問題は発生しませんが、筆者の個人的な意見としては、この取り扱いもおすすめしません。

以下の従業員の給与額等を具体例として、その根拠を説明します。 

【前提条件】

会社の所在地:東京都

月額給与:300,000

年齢:30 

社会保険料は、被保険者が事業主から受け取る毎月の給与などを、区切りの良い幅で区切った金額をもとに計算します。その区切った金額のことを、標準報酬月額といいます。

上記の前提条件によれば、標準報酬月額は300,000円となり、社会保険料の自己負担額の合計は42,420円となります(健康保険料:14,970円、厚生年金保険料:27,450円)。 

【東京都の健康保険・厚生年金保険の保険料額表】

 この自己負担すべき保険料を、給与から控除せず会社が負担するということは、従業員にとっての給与の上乗せを意味することになります。

そうすると、月額給与の300,000円に自己負担額の合計42,420円を加算した金額が本来あるべき給与額ということになり、その合計額342,420円をもとに再度標準報酬月額を割り出して社会保険料を計算しなければなりません。

同じこと延々と繰り返さなくてはならなくなるのです。

結果的に適正な社会保険料を計算できず、適切な経理処理も困難になってしまうことになります。

このようにややこしくなってしまうので、社会保険料は原則通り労使折半で運用すべきです。 

まとめ

今回の記事では、社会保険制度の内容について解説しました。

とりわけ健康保険制度について、給付内容や加入条件から、違反した場合にまで詳細に解説しました。

日本の健康保険制度は充実した給付内容や対象者の広さに関し、世界的にも非常に評価の高い仕組みとなっています。

一方で加入義務があるのにも関わらず手続きを怠ったり、本来労使折半である保険料を全額従業員に負担させたりすると、厳しい罰則も規定されています。

事業主は社会保険の仕組みをしっかり理解し、手続きを怠ることのないようにしましょう。

今後も社会保険の適用拡大の動きが予想されますので、実際に適用拡大が発表された場合には、本記事の内容を参考に、しっかり準備しておきましょう。

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