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2024.08.26

役員報酬なしや0円で社会保険はどうなる?起業の際の社会保険について解説いたします。

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著者情報 森 逸行 FP歴15年 経験した事を伝え解決に導く『金融パーソナルトレーナー』

役員報酬なしや0円で社会保険はどうなる?起業の際の社会保険について解説いたします。

 近年、「働き方改革」によって、政府による副業・兼業の推奨ともとれる動きが活発になりました。

この動きを追い風に、独立開業・法人成りを検討する人多くなってきています。

その中で、開業した際に自分の給料はいくらにしようか、ということを多くの人が悩むのではないでしょうか。

起業したばかりの時期は、収益もあまり見込めないとの理由で、事業が安定するまでは給料はいらないと考える人も多いことでしょう。

今回の記事では、社長の給料なしはそもそも可能なのか。

可能だとすると、どういったメリット・デメリットがあるのかについて考察していきたいと思います。 

役員報酬ゼロは可能か?

社長の給料(以下、役員報酬と表記します)がゼロということは、いわゆるタダ働きを意味することになります。

しかし、そんなことがまかり通るのか、法的な問題は発生しないのか、と多くの人が思うことでしょう。ズバリ、役員報酬ゼロは可能です。

なぜなら役員は労働基準法でいう労働者には該当しないからです。

ここで、簡単に労働者と役員の違いについて整理します。労働者は企業と雇用契約を結び、企業の指揮系統のもと業務をする人のことをいいます。

労働の対価として給料が決まります。それに対して、役員は会社と委任契約を結び、会社の経営を任される立場の人です。

役員に対する報酬である役員報酬は、会社の利益の配当の意味合いがあるため、創業当初で会社の利益がない状態では、役員報酬ゼロにしても法的な問題は発生しないということになります。 

役員報酬ゼロの場合、社会保険はどうなる?

ここで、下記のような疑問が出てきます。 

・役員報酬をゼロにすると、健康保険や厚生年金保険といった社会保険料が控除されたら、毎月の報酬がマイナスになってしまうのではないか。

・そもそも報酬もないのに社会保険加入できるのか。

この疑問を検証する前に、まず社会保険の加入要件について解説します。 

社会保険の加入要件

202410月より社会保険の適用範囲が拡大され、以下のすべての要件を満たす場合、社会保険に加入しなければならなくなります。 

●週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
●所定内賃金が月額8万円以上
●2か月を超える雇用の見込みがある
●学生でない 

【参考サイト:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト】

労働者の場合、雇用契約書によって上記の4要件を満たすかは明確に把握できるので、社会保険の加入要件の可否判断は簡単にできます。

しかし役員の場合は、労働時間や賃金という概念がなく、社会保険の加入要件として、労働者のような明確な基準はありません。

役員の場合、役員報酬の金額によって加入の可否判断をする、という取り扱いになっています。実態としては、所得税や住民税を考慮して、月額5万円ないと年金事務所より社会保険の加入を断られるケースもあるようです。

この取り扱いに基づくと、役員報酬をゼロにすると、社会保険の対象から外れ、加入できないことになります。

この場合、国民年金や国民健康保険に加入することになり、将来もらえる年金額に大きな影響を受けることになります。 

役員報酬ゼロのメリット

会社のためとはいえ、役員にとって自分の報酬をゼロにすることは非常に勇気のいることです。

ここでは役員報酬をゼロにすることによって、どのようなメリットがあるのかを考察してみたいと思います。 

会社の収益を増やせる

冒頭にも触れましたが、創業当初は売上があまり立たないのが現実です。会社が軌道に乗るまでは出費を1円でも抑えたいと、多くの経営者は思うことでしょう。

役員報酬ゼロということは、その分会社にとっては出費を抑えることになります。

創業1期目の決算を黒字で終えることができれば、世間的な信用も上がり、銀行からの融資もしてもらいやすくなり、資金繰りの安定にもつながってくるのです。 

個人の各種税金、社会保険料の負担軽減につながる

役員個人の税金、社会保険料の負担を抑えられることが、メリットの2つ目です。

役員報酬が発生すると、社会保険への加入義務が発生します。納める保険料は報酬額に比例して大きくなります。

社会保険料だけでなく所得税、住民税も同様で、税額は報酬額に比例して大きくなります。

しかし役員報酬ゼロにすると、社会保険の加入要件を満たしません。

会社にとっては役員の分の社会保険料の支出がなくなり、その分だけ会社に残るお金が多くなり資金繰りの安定につながります。

ただし役員個人としては国民健康保険、国民年金(年齢によります)に加入しなければならないので、役員個人としての出費は発生します。 

【参考サイト:厚生労働省 国民健康保険の加入・脱退について】

 【参考サイト:日本年金機構 Q国民年金はどのような人が加入するのですか。】

会社の将来のためのお金を増やせる

これまでに説明したメリットによって、資金繰りが安定することで、会社に残すお金を増やすことができました。

その分を将来従業員や会社に還元されるものに投資することで、さらなる経営の安定化を目指すことができます。

投資先の具体例としては下記のようなものが考えられます。

中小企業退職金共済制度(中退共)

中小企業退職金共済制度(中退共)・・・従業員のための退職金積立制度。事業主が毎月一定額の掛金を拠出し、従業員の退職時には中退共より直接従業員に退職金が支払われます。国からの一定の補助制度もあります。 

【参考サイト:中小企業退職金共済事業本部】

倒産防止共済

倒産防止共済・・・加入者の取引先が倒産した場合の、連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐ制度。無担保・無保証人で掛金の最大10倍まで借り入れができます。 

【参考サイト:中小企業庁 中小企業倒産防止共済とは】

生命保険への加入

生命保険への加入・・・生命保険に加入することで、役員に万が一のことがあった際の、資金繰りの悪化に備えることができます。

その他にも解約返戻金を活用することで、役員や従業員の退職金であったり設備投資資金であったりと、様々な用途に活用することができます。 

役員報酬ゼロのデメリット

役員報酬ゼロにすることはメリットばかりではありません。

当然デメリットもあります。考えられるデメリットについても紹介したいと思います。 

金融機関、取引先といった第三者からの信用を失うリスクがある

これから説明するデメリットは、金融機関からの融資を検討している方は特に注意が必要です。

金融機関に融資を申し入れる際、決算書を提示する必要があります。

金融機関の融資担当者は、当然役員報酬ゼロの部分を指摘します。

どのように生活しているのか、役員報酬をゼロにしなければならない業態なのか、などといった印象を与えてしまうと、融資の可否に影響を与えかねません。

取引先にとっても、安定した、信用に値する会社と取引したいと思うでしょう。

場合によっては信用調査会社を利用して調べられたりした場合、役員報酬ゼロは決して良い印象は与えません。 

社会保険に加入できない

これは税負担、社会保険料負担の点でメリットがある反面、デメリットでもあります。

メリットの説明の際にも触れましたが、社会保険に加入しない場合、国民年金と国民健康保険に加入することになります。

国民健康保険は健康保険(社会保険)と比較して、保障内容に大きな違いはありませんが、国民年金と厚生年金保険(社会保険)とで大きな違いがあります。

日本の年金制度は1階建てと言われていて、厚生年金の被保険者であれば老齢、障害といった支給事由に該当すると、1階部分と2階部分の給付を受けることができます。

しかし国民年金の被保険者の場合、支給事由に該当しても、支給を得られるのは1階部分のみとなります。つまり社会保険に比べて、国民年金は保障内容が薄くなっているのです。 

【参考サイト:厚生労働省 いっしょに検証!公的年金 ~年金の仕組みと将来~】

税金の負担が増える可能性もある(法人税の負担増)

会社に少しでもお金を残すためにとった、役員報酬ゼロという手段が、却って税負担額の増加という結果を招き、結果的に逆効果をもたらしてしまう可能性もあります。

役員報酬がゼロということは、その分会社の収益の増加することになります。

会社が支払う法人税は、ザックリ言うと会社の企業活動で得た収益に対して課せられる税金です。

収益が大きければ大きいほど、納めるべき税金も大きくなります。

役員報酬ゼロの場合とそうでない場合とで、役員個人と法人の税金の負担額のトータルの金額で比較すると、役員報酬ゼロの場合の方がトータルの税負担額が大きくなる場合もあるのです。

様々なシミュレーションで計算した上で、役員報酬を決める必要があります。 

まとめ

今回の記事では、役員報酬をゼロにすることのメリット、デメリットを解説しました。

役員報酬をゼロにすることで、会社の収益を増やすことができ、会社の将来のための資金に充てることができます。

しかし、収益が増えることは法人税の増額にもつながる等、必ずしもメリットばかりではありません。

金融機関や取引先の信用問題にもかかわってくる恐れもあります。

また、役員報酬は一度決めてしまうと、金額の変更には諸々の手続きが必要になってきます。

役員報酬ゼロを採用する前に、様々な想定を考慮して検討を重ねましょう。

場合によっては税理士等の専門家に相談するのも一つの手です。

行き当たりばったりに変更するのではなく、様々な人の意見を取り入れて参考にするようにしましょう。

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