建設業の労災上乗せとは?どんな危険?入るべき賠償責任やモノ保険は?事故例あり!
建設業は事故の多い事故のひとつとして数えられています。
労災事故であったり賠償事故、物損事故であったりと、挙げだすとキリがありません。
経営者の方はリスク管理に頭を悩ませていることでしょう。
今回は建設業におけるリスクについて、質問に対する回答を通じて解説していきたいと思います。
目次
質問1:建築工事業で具体的にどういった危険があるのでしょうか?
建築工事業を営んでいる者です。
従業員も10名程度で小さな会社ではありますが、危険の多い業種であることは認識しており、日々安全作業に努めているつもりです。
危険が多いことは漠然と認識しているものの、具体的にどういった危険があるのでしょうか?
きちんと整理したいと思って質問しました。
回答|建設業が最低限備えるべきリスクについて解説します。
建設業は様々な事故や、多重下請け構造といった業界特有の構造から発生するトラブルの多い業種です。
そのような事情もあってか、損害保険会社各社は様々な保険商品を開発し、各社でしのぎを削っています。
加入者側にとっては、選択肢が増えるのはありがたい面もありますが、一方で結局何の保険に入ったら良いのかわからなくなってしまいます。
ここでは建設業が最低限備えるべきリスクについて解説します。まず考えるべきは、大きく分けて下記の3種類になります。
・第三者に対する賠償リスク
・物に対するリスク
それぞれについて解説していきます。
従業員のケガのリスク
従業員が現場作業中の事故によってケガをしてしまったり亡くなってしまうリスクです。
業務中のケガであれば政府労災が適用されますが、補償としては政府労災だけでは足りないというのが実情です。
建設業に限った話ではありませんが、会社には従業員が安全に働くことのできる環境をつくる義務(安全配慮義務)があります。
たとえば業務中の事故が原因で後遺障害を負ってしまったとします。
政府労災の認定を得られ、一定の給付が得られたとしても、被害者としては、政府労災の補償だけでは不十分であると考えるケースもあるでしょう。
この場合で、被害者が会社の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求訴訟を提起してしまうとすると、多くの場合、会社側に不利な判決が下ってしまいます。
このように従業員のケガに対して、政府労災だけでは不十分であることを念頭に置いた上で、上乗せの備えを考える必要があります。
第三者に対する賠償リスク
建設工事中に、第三者にケガを負わせてしまったり、第三者のモノに損害を与えてしまうリスクです。
また、建設工事が完了し、引き渡した成果物の不備に起因して第三者に損害を与えた場合の賠償リスクも含まれます。
たとえば、第三者に対する賠償リスクに関する事故としては、下記のような事故が想定されます。
【事故例】
・建設現場において足場を組み立てていたところ、高層階から資材を誤って落下させてしまい、たまたま通りかかった通行人の頭部に直撃し、後遺障害を負わせてしまった。
・台風により足場が崩れてしまった。近隣の住宅建物の多くに足場が倒れてしまい、損害を与えてしまった。
・商業ビルの敷地内に看板を設置したが、建付けが甘かったことで、強風により倒れてしまい、通行人に直撃。大けがを負わせてしまった。
・給排水管工事を終え住人に引き渡したが、工事の不備により配管部分から漏水が発生。住宅の家財道具の多くに損害を与えてしまった。
建設工事における賠償事故となると、多くの場合、損害額は非常に高額になります。
たった一回の事故で経営を揺るがすほどの経済的損失を被ってしまうケースは往々にしてあります。賠償事故に関してはしっかり備えておかなければならないリスクです。
物に対するリスク
建設工事中に、物に対して発生するリスクです。
建設現場には、配管・機械・空調設備等といった様々な物があります。
そういった物に対して、火災や風災に代表される自然災害や突発的な事故に起因して損害が起こった場合についても考えておかなければなりません。
いかがでしたでしょうか。
その他にもリスクを上げだしたらキリがありませんが、上記の3種類のリスクについては最優先で考えるようにしましょう。
質問:労災上乗せ保険とはどういった保険なのでしょうか?
解体工事業をしています。先日、同業他社の経営者と話す機会がありました。
そこでその社長に労災の上乗せに入っているか?と聞かれました。
弊社は入っていない旨を伝えたところ、入ることを強く勧められ、保険会社まで紹介されました。
労災上乗せ保険とはどういった保険なのでしょうか?また、入った方が良いのでしょうか。
なんとなく騙されているのでは、と思ったので確認しました。
回答|労働者の業務上の事由または通勤による傷病等に対して保険給付を行う制度です。
まず政府労災について、その概要を解説します。
政府労災とは、労働者の業務上の事由または通勤による傷病等に対して保険給付を行う制度です。
原則として1人でも労働者を使用する事業は加入が法律で義務付けられています。
自動車に例えると自賠責保険をイメージしてもらえるとわかりやすいのではないでしょうか。
事業主は使用する労働者が業務に起因する事故によって傷病を負った場合、被災労働者に対して補償する義務があります。
政府労災は、その事業主の責任を肩代わりする位置づけになるのです。
しかし、いざ業務災害が発生し政府労災の認定が下って保険給付を受けたとしても、被災労働者にとっては政府労災の給付だけでは不十分なケースが大半です。
その足りない分を補填する意味で労災の上乗せ保険があるのです。
保険商品は損害保険会社各社から様々な特徴を持って販売されています。
また労災の上乗せ保険は大きく2種類のものがあります。労働災害総合保険と業務災害総合保険の2種類です。
それぞれについて簡単に概要を説明します。
労働災害総合保険
政府労災に完全に連動した保険です。保険金請求には政府労災の認定が必要になります。ただし特約を付帯することで、補償範囲を拡張することができます。
業務災害総合保険
労働災害総合保険と異なり、業務災害総合保険は政府労災の認定を待たずに保険金請求をすることができます。
つまり保険金支払いの条件に労災認定は入っておらずスピーディな保険給付を得ることができます。
また、労働災害総合保険と同様、特約を付帯することで補償範囲の拡張ができますが、特約の種類は労働災害総合保険のものよりも多く用意されています。
なお労働災害総合保険と業務災害総合保険の違いは、下記の記事に詳細な解説がされています。ぜひ参考にしてください。
【参考記事:業務災害補償保険と労災の違いを分かりやすく現役の社労士が解説いたします。】
結論として、労災の上乗せ保険は加入することを強くおすすめします。
労災のリスクの高い建設業であればなおさらです。
質問者様の話にあった同業他社の社長は騙す意図は全くなかったものと思われます。ぜひ検討してみてください。
質問:建設関係の業種で入るべき賠償責任保険について教えてください。
建設関係の仕事をしています。内装工事や解体、防水工事等、様々な仕事を請け負っています。
労災の上乗せ保険には入っていますが、賠償責任保険には何も入っていません。
しかし賠償事故に関しては、漠然とした心配はあります。
ただ、一口に賠償責任保険といっても様々な種類があって、何に入ったら良いのかわかりません。
建設関係の業種で入るべき賠償責任保険について教えてください。
回答|建設関係の優先すべきリスクは下記の2種類になります。
建設関係の業種では事故によって様々な賠償責任が発生するリスクをはらんでいます。
その中でもとりわけ優先すべきリスクは下記の2種類になります。
・仕事の結果に対するリスク
それぞれのリスクについて解説し、適用すべき保険を紹介していきます。
工事遂行中のリスク
たとえばマンションの建設工事中、高層階から資材を誤って落下させてしまい、通行人がケガをした等といった、建設工事作業に起因して第三者に損害を与えてしまうリスクです。
また工事作業そのものだけでなく、建設作業のために使用または管理している施設や資材によって第三者に損害を与えるリスクもあります。
たとえば木材を現場に立てかけて保管していたところ、管理方法が甘く崩れてしまい、通行人にケガを負わせてしまった、といったケースが、その代表的な例です。
このようなリスクに対応する保険は、請負業者賠償責任保険です。
この保険では請負作業遂行中に発生した偶然な事故、または請負作業遂行のために所有、使用もしくは管理している施設の欠陥、管理の不備により発生した偶然な事故に起因して、他人の生命や身体を害したり、 他人の財物を損壊した場合に補償する内容となっています。
なお、請負業者賠償責任保険については下記の記事でも解説していますので、併せてご確認ください。
【参考記事:建設工事・解体業での物損事故!請負業者賠償責任保険金支払い事例30件を一挙公開】
仕事の結果に対するリスク
たとえば内装工事業者の施工ミスにより、壁に立て付けてあった棚が落下し、家財に損害が発生といったように、仕事の結果に起因する事故のリスクがあります。
このようなリスクに対応するのは生産物賠償責任保険(PL保険)です。
PL保険では製造・販売した財物(生産物)が第三者に引き渡された後、その生産物の欠陥により発生した偶然な事故、または行った仕事が終了した後、その仕事の欠陥により発生した偶然な事故によって第三者に損害を与えた場合に補償します。
PL保険についても補償内容について下記の記事で解説していますので、ご確認ください。
【参考記事:生産物・PL保険賠償事故!損害保険金支払い事例17件を一挙公開】
総合賠償責任保険について
これまで紹介した2種類のリスクに限定するのではなく、事業活動において生じる可能性のあるあらゆるリスクについて備えることのできる賠償責任保険があります。
それは総合賠償責任保険というもので、多くの損害保険会社で販売しています。
細かくリスク区分ごとに賠償責任保険を付保するわずらわしさもなく、これだけかけておけばとりあえず付保漏れリスクはなく安心といった性質の保険になります。
ただし総合賠償責任保険を付保するにあたり、注意点を2点紹介します。
1点目の注意点として、業種によっては不要な補償がついている点です。
たとえば総合賠償責任保険では預かり品の補償というものが付保されていますが、建設業にとってその補償は必ずしも必要な補償とは言えません。
このような余分な補償もついてくるという点には注意しておきましょう。
2点目の注意点は、保険料が割高になるという点です。補償内容も補償範囲も手厚い分保険料はどうしても高くなってしまいます。
保険料削減のために不要な賠償部分の補償を削るというのはできません(保険会社の規程によります)。
以上の2点の注意点を踏まえ、補償内容と保険料のバランスをよく考えて検討するようにしましょう。
質問4:建設業におけるモノ保険とは何を指すのでしょうか?教えてください。
総合建設業を営んでいます。土木や建設工事から様々な建設関係の業務を請け負っています。
従業員の退職金のために養老保険を準備していて、労災の上乗せや総合賠償責任保険にも加入しているので、福利厚生やリスク対策はバッチリだと自負しています。
ところが、先日保険の担当者と話していたところ、モノ保険がかかっていないことの指摘を受けました。
事務所の設備什器にはしっかり火災保険をかけているので、その時はいまいちピンときませんでした。
建設業におけるモノ保険とは何を指すのでしょうか?教えてください。
回答|建設業におけるモノ保険は一般的に下記の3種類になります。
建設現場には様々な資材が置かれています。そのような資材の損壊リスクを補償するのが建設業におけるモノ保険の位置づけです。
建設業におけるモノ保険は一般的に下記の3種類になります。
・組立保険
・土木工事保険
それぞれ建設現場において工事対象物(工事目的物)に生じた損害を補償する保険という点で共通していますが、対象とする工事で相違点があります。
それぞれの対象とする工事は下記となります。
建設工事保険
ビル、工場建屋、住宅などの建物の建築(増築・改築・改修工事を含みます。)を主体とする工事を対象としています。
組立保険
機械、機械設備、装置などの据付・組立を主体とする工事を対象としています。
対象工事の例)建物の内装・外装工事、鉄塔・サイロの工事、発電設備の工事、化学プラントの工事など。
土木工事保険
道路工事、上下水道工事等の土木工事を主体とする工事を対象としています。
対象工事の例)道路工事、ダム工事、上下水道工事、河川工事など
なお、保険金支払事由も概ね共通しています。主な支払事由は下記となっています。
・自動車、航空機の衝突
・盗難、放火、いたずら
・火災、爆発・地盤沈下、地滑り、土砂崩壊
・施工ミス
このように事務所内のデスクや椅子、パソコン等は質問者様の仰る通り、火災保険で設備・什器に補償を設定することができますが、建設現場におけるモノに対しては、別途保険を付保する必要があるのです。
保険期間の設定や補償内容の詳細等については、保険会社の営業担当者に必ず確認するようにしましょう。